冷徹社長は幼馴染の私にだけ甘い
今、社長室にいるのは凛子と優の二人だけ。
(そういえば、ふたりきりになるのは凄く久しぶりだな)
意識しだした凛子の心臓がドキドキと大きく動き出す。凛子の就職活動が忙しかったのと、優の仕事が忙しくなかなかプライベートでは会えないでいた。だからこそ、少しでも近くにいたい凛子は渋谷食品への就職を選んだのだ。
「凛子」
優しい声。凛子の大好きな声が凛子の身体の中に駆け巡る。
「優、ちゃん?」
名前を呼ばれ、凛子は首をかしげながら優を見る。二人だけのこの空間で何を言われるのだろう。わざわざ呼び出して、もしかして……と少し甘い雰囲気になることを期待してしまっている自分がいた。
優は自分のデスクの引き出しから小さな箱を取り出し、大切そうに凛子の前に差し出す。
「えっ……これって……」
凛子は目を大きく見開いて小さな箱を凝視した。
(これはもう恋愛漫画王道の指輪が入ってプロポーズ!? えぇ!? まだ付き合ってもいないのに!? まさかこんな展開になるなんてっ! 社会に出て大人になるって凄い!)
手が小刻みに震えてくる。