遠くても近距離恋愛
出会い
「いらっしゃいませ~」バイトで働いているリユースショップの陽気な店内放送をBGMに僕は入店してきたお客さんに向かって挨拶を向ける。日々持ち込まれる買取査定品を査定し、値付けをしてその合計金額を提示して納得がいただけたら、晴れて持ち込まれた査定品は店の商品となり、査定額に応じて販売金額を新たに値付けをして売り出す。それが今、僕がやっているリユースショップのアルバイト。しかし、毎日見たこともない商品や好きなものが査定でやってきた時の仕事としてのやりがいはあるものの、プライベートに関してはその真逆だ。毎日18時に終業し、仕事が終われば近くのスーパーで買い出しをして帰宅し、仕事で疲れた身体をシャワーで洗い流す。気づけば時間は19時を回っていてすぐさま夜ご飯の準備に取り掛かる。実家ぐらしではあるものの親は介護職で帰りも遅い。帰ってきてすぐに食べられるようにとここ最近は僕が料理や掃除などをやるようにしている。と、というのも整体師の洗面学校を卒業した僕は授業の過程でヘルニアを患い、治療していたが内定には間に合わず辞退。それから約半年か一年ほどの期間は仕事につかず家で昔からの夢でもあった小説を書いたり、今まであまりしてこなかった料理や掃除などの家事おやり始め、今ではそのレベルも事後評価ではあるがなかなかのものだと自負している。ヘルニアも改善し、いざそろそろ仕事も始めなければいけないなと感じ、働き始めたのが今のアルバイト先。最初の面接で家で家事をするからと生活雑貨を任されるように。正直お皿やフライパンなどの知識は全く無く、使えればいいや、百円均一でよくない?という一般思考だった僕にはハードルが高すぎた。ブランドや特徴などある程度は知っておいた方がいいとみっちり教え込まれて、頭がパンクしそうになりながらも教えてくれていた先輩主婦パートさんのおかげでなんとか続けることが出来た。仕事は順調、しかしプライベートは?毎日仕事が終わるたびに、休みの日になる度に頭の中にしかしが顔を出してくる。
「なにか新しいことでも始めたいな・・・・」毎日の生活に飽き飽きしていた僕はある休みの日に自分の部屋で溜まっていた好きな配信者の動画を見ながら一人つぶやいた。
新しいこと、だが一概に新しいこととは一体何なんだろうか?勉強を初めてみる?いや、勉強嫌いな上に今学びたいものが明確にないままに勉強を初めても意味がない。では別の趣味を増やしてみる?元々音楽や映画、本が好きで古本屋で買い漁っていた時期もあったが、お金にあまり余裕もない。時間に余裕はあるがお金に余裕がないのは家庭環境のせいなのか、それとも今の日本の経済環境が悪いのか、それとも定職につかない僕が悪いのか・・・・。どれらにしても新しい趣味を始めるには難しい。やぱり今からなにか始めるには難しいのかな?と思っているときにテレビで最近マッチングアプリが流行っていることを知った。
「マッチングアプリね~、絶対これ会えんやつやん」とぼやきつつも僕はテレビで紹介されていたアプリをインストールした。簡単な会員登録をして、いざマッチング開始。始めは新規会員登録キャンペーンで一日限定でいいねや会話し放題で様々な女性にいいねをとりあえず送ってみた。だが、いいねは返ってくるもののチャットの返信は一向に帰ってくる気配がない。
「やっぱり駄目か~イケメンとか金持ちぐらいしか相手にされないんだろうな」実際にやってみて分かるマッチングアプリの実態に思わずため息が出てしまう。そんなときだった。いいねとチャットを送っていたユーザーネーム「りゃー」さんという一人の女性から返信が来た。
僕:「はじめまして、よければお話ししませんか?」
りゃー: 「いいですよ~仲良くしてください!」
初めて返信が返ってきた喜びに僕はその場で一人ガッツポーズをしていた。
これが僕と彼女の出会いのはじまりである。

またある日、僕はりゃーさんとマッチングしたその日から会話を今も続けている。正直、他の人と仕事以外で会話をする機会があまりない僕はりゃーさんとの会話でも若干のコミュ障を発動していた。普段話している友達とは違った距離感で一体何を話したらいいのか、何気なしに普段どういう仕事をしているのか、どんな事に興味があるのか、それらで話を派生させていくが普段から会話がうまい人は毎日こうしたやりとりをしているのかと思うともはや尊敬の域にまで達する。シフト制のバイトで出勤時間を昼からにしていた僕はりゃーさんが仕事に向かうまでの間もチャットで会話をしていた。「お互いこれから仕事だね」と他愛もない会話を朝から軽くして、りゃーさんは先に仕事へ。僕は仕事へ行く前に少しだけ家の事を済ませてから昼前に仕事へと向かった。仕事を終えてアプリを開くと、先に仕事を終えていたりゃーさんから返信が返ってきていた
りゃー:「お疲れさま~仕事終わった~」
僕; 「お疲れ様です!僕も今さっき終わりました!」
まるで付き合いたてのカップルかのようなやり取りでお互いを労い、仕事終わりの買い物に向かおうとしたときだった。りゃーさから突然「これから何するの?」と返信があった。
僕:「これからは特に・・・・どうしたんですか?」
りゃー:「今日金曜だし、これから会えないかなって思って」なんとりゃーさんから会うお誘いが来たのだ。僕は思わず道の真ん中でえ!?と声を出してしまう。側を通る通行人から少しだけ変な目で見られたがそれはこの際関係ない。僕は迷う暇もすぐさま「会いたいです!」返信を返した。
りゃー:「仕事先って〇〇だよね?ならその近くにあるドンキに集合でもいいかな?」
僕:「大丈夫です!でも一回家に戻ってからでもいいですか?汗かいてるんで服だけでも着替えたくて」
りゃー:「全然いいよ!ゆっくり来ていいからね!」
僕は買い物を放り出して急いでバスに乗り込み帰宅した。途中のバスでは緊張からなのか少し心臓の鼓動が早い。そわそわして聴いていた音楽のボリュームを上げる。爆音で脳内に流れる音楽に身を任せ緊張を紛らわす。今日、親は夜勤で既に家には誰もいない。シャワーを浴びて服を着替えて、髪もセットしていざ待ち合わせ場所のドンキへと向かった。
向かう道中でりゃーさんからの通知が来た。先に着いたので買いたい物だけ先に買って駐車所で待っておくとのこと。しかし、そのチャットをもらった時点でドンキは目と鼻の先。りゃーさんが買い物から戻るまでの間、一応既についていることだけ伝えて一人駐車場で待つことにした。
りゃーさん:「買い物終わったから駐車所に向かうね、あ、服はね、なんかロボットみたいな感じの服だよ」
その一文を見て僕の頭の中には?が何個も群れを成して流れ込んでくる。
金曜の夕方ということもあり人の絶えないドンキの駐車場で辺りを見回しガンダムみたいな服を来た人物を探してみるがそれらしき人物は見当たらない。まず第一にガンダムみたいな服とは一体何なんだ?ガンダムの絵がプリントされている服なのか、それこそ本当にモビルスーツにも似た見た目をしている海外の訳のわからないコレクションで紹介される服なのか、もはや自分でもよくわかってない。僕は今一度りゃーさんに連絡してみた。
僕:「着いたんですけど、もういますか?」
りゃーさん:「いるよー、ガンダムみたいな服着てるからすぐわかると思うよー」
僕:「ガンダムみたいな服って何なんですか?笑」
りゃーさん:「ガンダムみたいな見た目してる服だよ笑」
僕は弄ばれているのかな?再び辺りを見回すが周りにはやはり買い物袋を持った家族連れや少しやんちゃな格好をしたグループ、学校帰りの高校生たち、その中にガンダムみたいな人物はやはり見当たらない。
すると携帯にりゃーさんからのメッセージが1件来ていた。
りゃーさん:「後ろ向いて?」
メッセージをもらいふと後ろ振り返ると一人の女性がこちらに向かって笑顔で近づいてきた。
「僕くん?」
「もしかしてりゃーさんですか?」
「ふふ、そうだよ!僕くん全然気が付かないから面白くついついそのままにしちゃった」
「だってガンダムみたいな服っていうから、てっきりそういうプリントがされた服を着てるのかと思いましたよ」
「え、ほらなんかガンダムみたいじゃない?」その場でりゃーさんは自分が着ている服を僕にわかりやすく見える様にひろげてみせる。その場で通行人の邪魔にならないように服を眺めて再度確認するが、やはりガンダムというにはあまりピンと来ない。
ガンダムといえばモビルスーツ、イメージとしては真っ白なボディにゴツゴツとした見た目。人が着るには重すぎる。
困惑している僕の表情を見てニヤニヤしているりゃーさんは僕の手を取ると車があるからと駐車している場所まで案内してくれた。着ている服と同じく白いボディの軽自動車。持ってきたバックを後部座席に置かせてもらい、いつまでもドンキの駐車場にいるわけにもいかないのでひとまず出発することにした。
「どこに行こうかー?お腹とか空いてる?どこか行きたい場所ある?」
「あ、若干お腹は空いてるかもしれないです。でもそこまで何処かでがっつりっていうほどじゃないんですよね」
「そっか・・・ならスーパーでご飯でも買って持ち込みできるカラオケにでも行こうかー」
「いいですね、そうしましょ」行き先も決まり、二人は金曜の夜の街へと向かった。

19時を過ぎた夜のスーパーでは仕事帰りのサラリーマンやお母さんOLさんが夕飯の買い物に訪れている中、二人も今日のご飯を吟味していた。出来合いで買うとすればお惣菜やお寿司だろうか?店内を一廻りして食べたいものをかごに入れていく。唐揚げと鮮魚コーナーで見つけた刺盛りとレジ近くの冷蔵コーナーで見つけたお寿司を買って車に戻った。車に戻るとりゃーさんがふと後部座席にもとから置いてあったレジ袋を運転席に移動させ僕に手渡した。
「それ、話して買ったカードのやつなんだけど、開封した内容が面白いから見てみて」そういえば、りゃーさんとは今話題のカードゲームの話もしていた。僕はカード自体は小学生以降動画で対戦動画を見る以外、プレイはやってこなかったんだが、りゃーさんはどうやらコレクションと合わせてプレイも軽くやっているようで、発売された新弾のパックを買ってきていたようだ。
「これ後で一緒に開封しようね」
「じゃあ次はカラオケにでも行こうか?」
「いいですね!近くにいつも行ってるカラオケがあるんでそこに行きませんか?」こうして次の行き先も決まった二人は車を走らせ、県の大学近くにあるカラオケへと向かうことにしたのだった。

後半へ続く
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