冷酷・楠木副社長は妻にだけは敵わない
新年会と楠木夫婦は人気者

【仕事始め】

正月休みが明けて、仕事始めの朝━━━━━

ベッドルームに、スマホの目覚ましが鳴り響く。
朱李に抱き締められていた千鶴が、身を捩りサイドテーブルの上のスマホを目ボケ眼で操作する。

「んん…起きなきゃ…」
呟いて起き上がろうとすると、グッと強い力で引っ張られた。

また朱李の腕の中に収まってしまう。

「んんっ!朱李く…離して……!
起きなきゃなの…」
「嫌だ。
もう少し、寝てよ?」

「でも、もう起きて朝御飯作らなきゃ!
私、作るの遅いから」
「じゃあ、俺が作るからもう少し横になろ?」

「それはダメ!」
「なんで?」
「私、奥さんだもん!
家事は私の仕事!
朱李くんは、お仕事忙しいんだから」

「………ったく…ほんと、敵わねぇな…」

「え?何?もう一回言って?」
「ううん!
わかった。起きよ?」

「え?朱李くんは寝てていいよ?」
「いや、起きる。
ちづちゃんの傍にいたい!」

洗面を済ませ、キッチンに立つ千鶴。
アイランドキッチンの向かい側から、朱李がジッと見つめている。

「朱李くん、恥ずかしいからソファ座ってて!」
「えーー!見てたいんだけど?」

「ダメ!!」
「………」
「ほら!テレビ!天気予報見て!
なんか、お天気良くないよ?」

「…………フフ…ちづちゃん、必死だな(笑)
可愛い…」
朱李は微笑み、ソファに座ってテレビをつけた。

しばらく、ニュースを見ていると……

キッチンから“キャー!失敗したぁ…”と、千鶴の声が聞こえてきた。
千鶴がこんなことを言っている時は、大概玉子焼が崩れた時か焦げた時だ。

「いや、でも…こっちは比較的上手くいったな…
こっちを食べてもらおっと…!」
と、ぶつぶつ呟いているのが聞こえる。

朱李は知らないふりをしながら、クスクス笑っていた。

案の定、千鶴の朝食の玉子焼は崩れて焦げていた。

「ちづちゃん。俺がそっち食べるから換えよ?」
「え?だ、ダメだよ!
焦げたし、崩れたから……
…って言っても、朱李くんのも綺麗とはいえないけど……
ごめんなさい。
また、失敗したの…」

「いいの!
ちづちゃんが、頑張って作ってくれたから!」

「ありがとう、朱李くん」

そして食べ始めた二人。
「ん!旨いよ、ちづちゃん!」
「良かったぁ……」

最近の千鶴の料理は、見た目は綺麗とは程遠いが味が格段に上がったのだ。
(まぁ、時々…元旦の野菜スープのようにとんでもないのが出てくるが……)
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