冷酷・楠木副社長は妻にだけは敵わない
「ピアスが可愛くて!」
「私は、スマホケース買いました!」
「私はブローチ!」

「「「可愛いよね~!」」」
「映えるし!」

思わず、顔がにやけた朱李。

「え……」
「今、副社長…」
「笑いました?」

「笑ったね(笑)朱李」

「は?
んなわけねぇだろ?」
(………笑ったけど…)

「てか、朱李」
「あ?」
「煙草、吸いに行くんじゃないの?」

「行くっつうの!
お前等が、千鶴の話をするからだろ!?」

そう言って、今度こそ会場を出たのだった。



パーティー会場は一階で、外には広い庭がある。
庭に出た、朱李。
ベンチに座り、煙草を吸いだした。

ガラス張りの窓からは、会場内の様子が見える。
みんな、楽しそうに談笑している。

自分とは別の世界に見える。

空を見上げた。
とても澄んでいて、星も見える。
綺麗な夜空だ。
千鶴のことを想う。

「千鶴、美味しいもん食ってんのかなー?
楽しんでんだろうな……
……………俺が傍にいないのに、楽しむなよ…
…………って…
何言ってんだ、俺は……」
一人で呟き、自嘲気味に笑う。

そこに「副社長」と、声をかけられる。

「………あ?」
そこには、秘書の鈴町(すずまち)がいた。

「あの…隣…いいですか?」
「ダメ」

「………」
即答する朱李に、落ち込む鈴町。

「なんだよ」
「ちょっと、相談があって……」

「ふーん。で?」

「聞いてくれませんか?」
「嫌」

「やっぱ、即答なんですね……」

「向こう行けよ。
てか、お前いつもしつこい。邪魔!」

鈴町は、会社でもよく朱李に声をかけていた。
もちろん、その度に断っているが。

「でも、会社内のことなんです!」

「はぁ…何!?」
ため息をつき、鈴町を睨んだ。

「私…同じ秘書課の子達に、嫌がらせされてて……」
「ふーん。
お前、性格悪そうだもんなぁー」

「だから━━━━━」
「だったらさぁ!!」
「え?」

「辞めたら?会社」

「え……」
「別にお前がいなくても、会社は機能する。
それに俺は、お前のような人間はいらない」

「どうして、そんな冷たいの!?」

「どうして?
そんなの知らねぇよ!
これが、俺だし。
物心ついた時から、興味があることにしか熱を持てない。
だいたい、相談なら兄貴にすればいいだろ。
俺に相談したところで、聞くわけがないんだから」

朱李は鋭く鈴町を見て、言ったのだった。
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