冷酷・楠木副社長は妻にだけは敵わない
「なんで、あんな子がいいの?」

「は?」

「副社長の奥さんです」

「━━━━━━━!!!?」
明らかに朱李の表情と雰囲気が変わった。

「普通の女だし、なんかどんくさそう。
それにバカっぽ━━━━━━」

ガンッ━━━!!!!!
バリーーーーーーン!!!!!

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朱李が、パーティー会場のガラスの窓をおもいきり殴り割った。

場が凍る。
会場内が騒然となった。

朱李の拳は切れ、血がポタポタ落ちていた。

「あ…あ…副、社ちょ━━━━━」

「お前に!!千鶴の何がわかる……!?」

「え……」

「………ろ」
「え?」

「消えろ!!!
━━━━━いいか?
明日、退職届を出せ。
どうせ、嫌がらせで困ってんだろ?
だったら文句ないよな!?」

「でも、私━━━━━」
「うるせー!!!もう、喋るな!!
声聞くだけでも、吐き気がする!!
━━━━━それとも、このガラスみたいになりたい?
言っとくが!俺は、千鶴以外には容赦しねぇぞ!?
お前が女でも関係ねぇ!!」

鈴町が、パタパタと逃げるように去っていった。

「朱李!!」
「…………兄貴。
わりぃけど………」

「わかってる。
とりあえず、手当てしないと!
━━━━━これ…骨、折れてるかも……」

「………たい」
「ん?朱李?」

「会いたい…千鶴に……」

「朱李…
…………とにかく、病院行くよ!!」

「あぁ…」

朱果がハンカチを朱李の手に巻き、支えるようにして病院に向かった。



「━━━━そう。鈴町さんは、朱李に惚れてたみたいだもんね……
彼女は、仕事面では優秀だったからなぁ。残念だね…」

病院に向かうタクシーの車内。
朱李が鈴町の件を話す。
朱果は、少し残念そうに言った。

「どんなに優秀でも、社員のモチベーションを下げる人間は必要ない」
朱李は、あくまで冷静に言った。

「そうだね」
「つか、嫌がらせをしてたのはあの女の方だし」

朱李は、全て知っていた。

「ほんと、朱李は冷静だな…」

「あ?なんだよ」

「本当に社長として相応しいのは、朱李だな」

「は?」

「ん?
朱李。父さんは、本当は朱李に社長職を継がせるつもりだったんだよ」

「ふーん」

「でもお前は、冷酷だからな。
心に温度がない。
だから俺が継いだんだ」

「兄貴?」

「朱李。
千鶴へのお前の情の0.1%でいい。
もう少し、他の人間にも情を持て。
じゃないと、お前は一生……“副”社長のままだ」

朱果が、鋭い視線で見据えていた。
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