冷酷・楠木副社長は妻にだけは敵わない
食事が済み店を出ると………

「お疲れ」
周太が立っていた。

「周太?
どうしたの?」
「ん?
もうそろそろかなって!
今から、みんな店来ない?」

沙都が駆け寄ると、周太が沙都の腰を抱き、千鶴達に言った。

「え? 店って……ホストクラブ?」
「本気で言ってる?」
ゆかりと亜理子が、目をパチパチさせている。

「マジ!
たまにはいいじゃん!
おいでよ!
沙都が世話になってるから、まぁ…お礼、みたいな?(笑)」

「どうする?」
ゆかりが、千鶴と亜理子を見る。

「私は、帰る。
朱李くんが嫌がるから……」
と、千鶴。
「私はどちらでも。
でも、二人が行かないなら行かない」

「ちづ、嫌なの?」
「え?あ、そうじゃなくて!
周太さんがどうとか、ホストクラブが嫌とかじゃなくて!」
あからさまに周太が切ない顔をしたので、慌てて弁解する千鶴。

「じゃあ、いいだろ?
来いよ!
“あくまでも”お礼だし。な?
もちろん、金をとるつもりねぇし!
ホスト達と、楽しく飲んで喋ろうぜ!」

「━━━━でも、ごめんなさい」
千鶴は、真っ直ぐ周太を見上げ言った。

「ちづ…」
「ちづ?」
周太と沙都も、真剣に千鶴を見た。

「私は、朱李くんを悲しませたくありません。
逆なら━━━━
私は、絶対嫌なので。
朱李くん、私が傷つくからって例え会社の接待でも、断って行かないでくれてるんです。
だから私も、行きません」

「………」
周太は、何も言い返せなかった。

もちろん、嫌がる千鶴を無理矢理行かせる気はない。
こんな風に真っ正面から意見されたのは、初めてだった。

周太は強面だ。
みんな怖がり、意見をする人間は両親と沙都だけだ。

千鶴のような弱く小さな人間。
周太なら、一捻りだろう。

でも“敵わない”と思ったのだ。

「なんか、わかった気がする」
「え?周太さん?」

「朱李が、なんであんなにちづに惚れてるのか。
なんであんなに、大切にするのか」

「え?え?」

「可愛いな、ちづ」

「はい?
ちょっ…沙都ちゃんの前で何を……!?」
「そうよ、周太!
ちづが可愛いのは、否定しない。
でもあんた、喧嘩売ってんの!?」

「は?ちげーよ!
そんな意味じゃねぇし!
大丈夫。
俺が愛してるのは、沙都だけ!」
そう言って、沙都に口唇を寄せる周太だった。

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