冷酷・楠木副社長は妻にだけは敵わない
「ちづちゃん」

「ん?」

「わかってる?」

「え?」

「“片時も離れない”って意味」

「うん。
でも、朱李くん。
一ついいかな?」

「ん?」

「この三日間じゃなくて……私はこれからもずーーーっと、朱李くんの傍にいたいんだけど」

「うん。もちろん、わかってる。
俺も、一生ちづちゃんを放すつもりない」

「うん。だからこれは、お願いじゃないんじゃない?」

「それは!ちづちゃんが、わかってないだけ」

「え?」
パシャッ!!と水が揺れて、引き寄せられた千鶴。

そして、コツンと額がくっついた。
「“片時も離れない”ってのは、心だけじゃなくて身体もってこと!」

「え?朱李く━━━━━━んんっ…!!
ん…んぁ……」
口唇が重なって、貪られた。

「ちづちゃんの口唇、ほんと柔らかくて気持ちいい……
ずっと、キスしてたいくらい……!」

「朱李…く……」
「この三日間、ずっと触れ合っていたい」

水の中で朱李の大きな手が、千鶴の身体をなぞる。
“んんっ…”と千鶴が身をよじり、甘い声が出る。

「千鶴…俺だけのことを見て、俺だけの声を聞いて、俺だけのことを考えて…?
もう……俺だけしかわからなくなるくらいに……!」

「朱李くん…」

「そう。
俺だけの名前を呼んで、俺だけのモノになって?」
そして千鶴を抱き上げた。

プールの中を千鶴を抱っこして歩き、プールサイドに座らせた朱李。

千鶴を見上げた。

「千鶴…」
「朱李くん」

「千鶴」
「朱李くん」

「時々……」
「ん?」

「不安になるんだ…」
「え?」

「千鶴が俺から放れていかないかなって」
「え?どうして?」

「俺の愛情が重すぎて、千鶴の負担になってないかなって……!」
「朱李くん…」

「好きなんだ。
どうしようもなく、千鶴のことが…
好きすぎて、頭がおかしくなるくらい」
「………」

「出きることなら……このまま千鶴を閉じ込めて、俺しか見れなくしたい。
誰の目にも触れさせず、俺だけのモノにしたい」
「………」

「………なんてな…(笑)
ごめん。
なんか、ドラマみたいだな(笑)」
「………」

「ちづちゃん?
あ…もしかして、退いた?
くさいセリフみたいで(笑)」
自嘲気味に笑う、朱李。


「…………いいよ」

千鶴が、ポツリと言った。
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