冷酷・楠木副社長は妻にだけは敵わない
「━━━━ただいま!ちづちゃん」

「お帰りなさい!
朱李くん、遅くまでお疲れ様!」
パタパタと玄関に駆けてきて、フワッと微笑む千鶴。

朱李は、その笑顔を見るだけで疲れが吹っ飛ぶ。

「んーー!千鶴~」
朱李は抱きつき、頬をすり寄せた。
「フフ…」
千鶴は微笑み、朱李の背中をゆっくり撫でるのだった。


「━━━━━あ、ちづちゃん。
カフェオレいる?」
「え?うん!
ありがとう!
………あ、これ!
コンビニで売ってるヤツだー!
甘くて、美味しいんだよ!」

「へぇー」
朱李は、ネクタイを緩めながら微笑んだ。

「でもこれ…どうしたの?
朱李くんは、ブラックしか飲まないのに」

「あー、貰ったんだ!」
「へぇー、誰に?朱果くん?」

「ううん。秘書」

「え……」
(ひしょ……?
確か、朱李くん達の会社の秘書さんは女性だよね?
なんで?)

千鶴が驚くのも無理はない。

こんなこと、初めてなのだ。

いつもの朱李なら、その場できっぱり断り受け取らない。
しかも以前、別の秘書にお菓子を鞄に勝手に入れられていた時、その場でゴミ箱に捨てていたのだ。

こんな風に受け取り、千鶴に渡すなんてあり得ないのだ。


「やっぱり、いらない……」
「え?ちづちゃん?」

「朱李くん、ご飯まだだよね?
すぐ、準備するね」

「うん…ありがと」
首をかしげ、朱李は食卓についた。

「━━━━━━ご馳走様、ちづちゃん。
風呂沸いてる?」
「うん」

「じゃあ、入ってくる!」
「あ、待って!」
「ん?」

「一緒に入りたい。
片付けるの、待っててくれない?」

「もちろんいいよ!
…………でも、どうした?
いつもはそんなこと、恥ずかしがって言わないのに」
「さ、寂しくて…」

「可愛い!」
「え?」

「ちづちゃんは可愛いな!」


違う━━━━━━━
完全にヤキモチを妬いたからだ。

でも、そんなこと言えなかった。

言ってしまうと、朱李の愛情を信じてないみたいに聞こえるから。



そんな時だった━━━━━━

「━━━━━じゃあ、沙都ちゃん。またね!」
ハンドメイドの作業を済ませ帰ろうとすると、周太が声をかけてきた。

「ちづ。帰るなら、送ってってやろうか?」
今日は店が休みで、周太はずっと家にいたのだ。

「え?あ、大丈夫だよ!ありがとう!」

「フッ!相変わらず、ガードかてぇなー(笑)
心配しなくても、俺が愛してんのは沙都だから何もしねぇよ?」

「え?そんなつもりは……
じゃ、じゃあ、お願いします……」
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