冷酷・楠木副社長は妻にだけは敵わない
「ゆっくり、歩こうか?」

エレベーター内で、周太が言う。
「え?うん」


「━━━━━なんか、あった?朱李と」

「え!?な、なんで!?」

「元気がねぇから。
ちづが元気ねぇの、変!」
「そうかな?」

「あぁ、変!」

「もう!変、変って言わないで?(笑)」
千鶴は、カフェ・オ・レの件を周太に話した。

「━━━━━━へぇー確かに、いつもの朱李からは考えられない行為だな」

「でしょ?
あのね。
朱李くんが会社の方から、物を貰うことは別にいいの。
ヤキモチは妬くけど、差し入れとかお礼とか色々あるから。
ただ初めてそんなことしたから、何か“特別”なことがあるのかな?って思っちゃって……」

「………つか!
ちづだって、らしくねぇじゃん!」

「え?」

「いつものちづなら、その場で聞いてた。
“どうして、受け取ったの?”とか何とか。
とにかく、その場で理由を聞いてたはず。
お前は、いつも真っ直ぐだから。
ピュアで、お人好しで不器用。
嘘がつけなくて、人を疑うこともできない。
そこが、いいとこなのに」

「そう…だよね……」

「今日、聞いてみろよ!
朱李にさ!」

「うん、そうする!周太さん、ありがとう!」


もうすぐ、マンションに着きそうな時。
千鶴のスマホが鳴り響いた。

朱李からのメッセージで━━━━━

『今日、残業になった。
悪いけど、飯も食って帰るから、ちづちゃんは先に寝てて!』

「………」
「どうした?」

「え?あ…残業で遅くなるみたい。
夕御飯も食べて帰るって!」

「ふーん…
あ、じゃあ━━━━━━━」



「━━━━━━ごめんね、沙都ちゃん。
一度出たのに、またお邪魔しちゃって!」

「ううん!
ちづなら、いつでも大歓迎よ!」
鷹原家に、引き返していた。

琉太も帰ってきて、四人で夕食を食べる。

「あ、琉太くん、そのピアス……」
「あ…はい。
母さんとこのやつです。
彼女とペアで……」

「へぇー!なんか、嬉しいなぁ!」
ニコニコして、琉太のつけたピアスを見る。

「彼女、母さんのハンドメイド好きみたいで」
「そっか!
沙都ちゃん、嬉しいね!
━━━━━━あ!そうだ!
これ……」

千鶴がバッグを漁り、スマホストラップを二つ出す。

「良かったら、どうぞ?
試作品なの。
できれば、感想聞かせてくれると嬉しいな!」

「え?いいんすか?
ありがとうございます!」

千鶴は、終始ニコニコしていた。

千鶴に笑顔が戻り、沙都と周太もホッとしていた。
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