冷酷・楠木副社長は妻にだけは敵わない
千鶴は、ただひたすら走っていた。

そしてマンションに近づいた時━━━━━━

バサッ━━━!!!?
「………っつ…ったい…」

つまづき、転んでしまった。


先程の朱李と比々野の姿が蘇る。

私には、抱き留めてくれる人がいない━━━━━


「私……バカみたい……(笑)
ハハハ…」

千鶴は、比々野を見て驚愕した。
小柄でとても可愛らしい顔をしていたのだ。

男なら、守ってあげたくなるだろう。


「━━━━━ちづちゃん?」
背後で、愛しい人の声が聞こえる。

でも、千鶴は振り向くことができない。

あまりにも、自分が惨めで……

「千鶴!!?」
タタタッ……と足音が聞こえてきて、朱李が千鶴の前に駆けつけてきた。

「大丈夫!?転けた?」
朱李が、千鶴の膝の擦り傷に触れようとする。

「━━━━━━っ…!!?
触らないで!!!」

千鶴が声を荒らげ、朱李の手を振り払った。

「は?ちづ…る…?」

「“あの人”に触れた手で私に触らないで!!」
その時にはもう……千鶴の顔が涙でぐちゃぐちゃだった。

でもそんなこと、千鶴はどうでも良かった。


「━━━━━━嫌だ」

「え?」

「千鶴に触れられないなんて、そんなの嫌だ」

「朱李く━━━━━━」
「それに!
千鶴に触れることができるのは、世界中で俺しかいない。
俺しか許されない」

そう言った朱李は、千鶴を抱き上げた。

「朱李くん、下ろして。
自分で歩け━━━━━━」
「それも嫌だ。
下ろしたら、俺から離れるだろ?
それも、許されないから」

「朱李くん…」

エレベーターに乗り、朱李が抱っこしたまま千鶴の額に額をくっつけた。
「ねぇ、千鶴…」
「え/////」

「…………キス、して?」

「え?」
「キ、ス!して?」

千鶴は朱李の頬に触れ、ゆっくり口唇を近づけた。
すると待ちきれないという風に、朱李が食べるようにハムッと千鶴の口唇に食いついてきた。

「んんっ!!」
口唇を貪られ、千鶴は苦しくなり口唇を離した。

「あ!ダメ!口唇離すなよ!
もう一回!!」
「ま、待って…呼吸、整えてから……」

「ダメ!早く!!」

すると、エレベーターが自宅のある階についた。
朱李は、残念そうにエレベーターを下りる。

そして、中に入るとそのままベッドルームへ直行した。


ベッドに千鶴を下ろし組み敷くと、千鶴の頬を撫でながら言う。
「手当て、待ってね。
先に、千鶴の中の嫉妬心消してあげる」

「え?」

「あと、俺の千鶴への狂おしい愛情を教えてあげるからな」

そう言って、また食らいつくように千鶴の口唇を塞いだ。
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