冷酷・楠木副社長は妻にだけは敵わない
「━━━━う…お、重い…」

そんなある日、食材の買い物から帰ろうとしていた千鶴。

エコバッグ二つがパンパンになるくらいに購入した為、かなり重くなっていた。

「いっぺんに買いすぎたな…(笑)」
朱李の休みの日に手伝ってもらえばよかったと後悔していた。


「………千鶴ちゃん?」
背後から、声をかけられた。

「え?あ、間野さん!
こんにちは!」
「大丈夫?重そうだね……」

「あ、買いすぎちゃって!」

「そうなんだ。
じゃあ、俺も持つよ!
家は何処だっけ?」

「え?だ、大丈夫ですよ!」

「でも、辛そうだよ?」

「そ、それに!間野さん、お仕事中ですよね?」
「ううん。今日は半休なんだ。
今帰ろうとしてたとこだから!」

「でも……悪いです…」
「んー、俺の方が悪いよ」
「え?」
「だって千鶴ちゃんを見かけて、明らかに辛そうなのに、ほったらかしにはできないよ?」

「間野さん…」

「ね?ほら、貸して?」
「あ、はい。すみません!ありがとうございます!」

「いいえ~」

間野が二つとも持ってくれ、二人は並んで歩く。

「すみません。
お仕事で疲れてるのに、更に疲れさせて……」

「ううん。そんなに疲れてないよ!
俺は営業だから、上手ーく手を抜いて仕事してるんだ。
あ、勘違いしないでね!
手を抜くってのは、サボるって意味じゃないよ?
今日みたいに、たまに半休をとってゆっくりするんだ。
その代わり、忙しい時は残業もするし、ほとんど飯も食えない時もある」

「へぇー!
朱李くんも、そんなこと言ってました。
まだ結婚前だったかな?
一ヶ月間くらいお休みしてたことがあって。
でも体調が悪いんじゃなくて、リフレッシュって言ってて。
そんなことしたら、他の社員さんがお仕事大変でしょ?って言ったことがあるんです。
シワ寄せとかで……
でも彼、はっきり言ったんです。
“でも俺は、一ヶ月休んでも迷惑かけない働き方をしてる。
普段俺は、他人に文句を言わせないように必死に仕事をしてるから”って。
男の人ってそうなのかな?
なんか、カッコいいですね!」

間野は、自分を見上げ微笑む千鶴に、心が温かくなるのを感じていた。

特別、美人でもない千鶴。
でも心の温かさや美しさに触れると、何故か虜になってしまうのだ。

まさに、間野も心が奪われていた。
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