冷酷・楠木副社長は妻にだけは敵わない
「……あっち…っ…」

コーヒーが間野の手にかかった。

「あ!!?ご、ごめんなさい!!
待ってください!すぐに氷を━━━━━」
「大丈夫、大丈夫!
俺が変なことしたから……自業自得だし(笑)」

慌てて氷とタオルを持ってくる。
「ごめんなさい!ごめんなさい!
本当に、ごめんなさい!」

間野の手はかなり赤くなっていて、千鶴は怖くなり震え出す。
手を震わせながら、間野の手を冷やした。

「本当に、大丈夫だって!
そこまで痛くないし!気にしないで?」

「た、確かお薬があったはず……!
ちょっと待っててください!」

ベッドルームに、向かう千鶴。
すると、バサバサ…と物が落ちる音が聞こえてきた。
「キャァァー!!?」

「え!!?
千鶴ちゃん!!?」
間野が慌てて向かうと、床に物が落ちて散乱していた。

「あ、すみません!
お薬あったので、手当てを……!」
薬を塗り、包帯を巻いた。
しかし、不器用な千鶴。
少し、不格好だ。

「すみません。綺麗に巻けなくて……
あの…お金をお渡しするので、病院に行ってください!
本当にすみませんでした!」

そう言って、万札を数枚封筒に入れて間野に渡した。

「いらないよ。
このくらいだったら、病院行く必要ないし!
それに、本当に大丈夫だから!
こっちこそ、ごめん!
あんなことして」


そして、玄関がガチャガチャと音がしたかと思ったら、ダンダンダンと足音が聞こえ、バン!!とドアが開いた。

「千鶴!!誰かいんの!!?」

「あ…朱李く……」

「なんなんだ、これ……」

静かな朱李の怒りが、込み上がっていく。

泣いている、千鶴。
割れたカップ。
ぐちゃぐちゃな、部屋。

この状況を見て、怒るなってのは無理がある。

「貴様……俺の千鶴に、何をした!?」

「え?あ、朱李くん!!違うの!
私が、間野さんに怪我をさせたの!!」

「は?
なんで?
何かされたから、怪我させたんだろ?
千鶴が、理由もなく人を傷つけるわけがない!」


「━━━━━そうだよ」
間野の言葉が、部屋に響く。

「あ?」

「え?間野さ……」

「無防備で警戒心のない千鶴ちゃんに、分からせてやろうと思って!」

「は?」
「朱李くん、可哀想。
俺は警戒心のない女、めんどくさくて苦手だから。
大丈夫だよ。
何もしてないから。
千鶴ちゃんも、気にしないでね!
本当に大丈夫だから!」

そう言い残し、間野はマンションを出ていった。
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