冷酷・楠木副社長は妻にだけは敵わない
夏の花火と副社長の本質
「━━━━花火?」

ある夏の日。
朱李が言った。

“花火、見に行かない?”と。

「うん。◯◯海岸の花火、今年は凄いらしいよ?」
「うん…」

「……??
ちづちゃん、嫌?」
千鶴の返事に覇気がない。
朱李は、千鶴の顔を覗き込んで問いかけた。

「ううん」
「ちづちゃん、言って?」

「嫌じゃないよ。
でも、苦手なの…花火…」

「そうなの?
そう言えば……高校からの付き合いなのに、花火見にあんま行ったことねぇな」

そう。
千鶴は、それまでなんとか誤魔化していた。

予定を入れたり、他の場所に行きたいと言ったり。

「あの、大きな音が……
だから、テレビとかで見るのは好きだけど……」

「そっか!」
「ごめんね…」

「ううん!
……………あ!じゃあ━━━━」




花火大会、当日━━━━━━━

「ちづちゃん、連れていきたいとこがあるんだ!」

そう言って朱李に連れられたのは、KUSU家具の本社だった。


「え……朱李くんの会社?」

「うん!」
千鶴の手を引き中に入っていく、朱李。

「え?え?いいの!?私、部外者だよ!?」
「違うよ。
俺の嫁さんだよ?」
「だからって━━━━━━」

「いいから!」

エレベーターに乗り、着いたのは社長室だ。


「入って?」
「う、うん」

広く、綺麗な社長室。
朱果の性格が表れたような、スッキリしていて心地よい空間だ。

「ちづちゃん、こっち!」
窓際に呼ぶ、朱李。

朱李の隣に立つと、朱李が“ちょうどいいかな?”と呟いた。


そして━━━━━━━━

ヒューーー!!!と花火が上がり、ドドーーーン!!!と空に大きな花が咲いた。

「す、凄い……綺麗………!!」

「ここからなら、怖くないだろ?
距離はあるし、建物の中だし!」

「うん!ありがとう、朱李くん!」

「いいえ~」

それから、窓越しに花火を堪能する二人。

ふと、千鶴は朱李を見上げた。
とても、綺麗だ。
窓から花火の光が朱李を照らし、更に綺麗に見える。

「朱李くん」
「ん?」

「ありがとう!」
「うん!」

「好きだよ」
「俺も!」

「大好き!」
「俺の方こそ、大好き!」

「私の方が、大好きだよ?」

「いや、俺だな!」

「違うよ、私の方がきっと……」

「千鶴?」

千鶴は、朱李の服を握り背伸びをした。
そして口唇を押し当てるように、朱李の口唇を奪った。
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