冷酷・楠木副社長は妻にだけは敵わない
「そろそろ帰ろうか?」

朱李が言い、席を立った千鶴。
「あれ?あの人……」

「ん?どうした?」
「あの人、朱李くんの会社の専務さんだ!
挨拶しなきゃ!」
近くのカウンターに男性が座っていて、千鶴は駆け寄った。

「は?千鶴!?」

「こんにちは!」
「え……!?」

「専務の……えーと…本間(ほんま)さん!ですよね?」
「は、はい」

「覚えてますか?
結婚式の時にお会いした、楠木 朱李の妻の千鶴です!」

「は、はい!もちろんです!」

朱李と千鶴の結婚式の時、KUSU家具の専務である本間は、会社関係者として出席していたのだ。

「お世話になってます!
これからも、主人のことよろしくお願いします!
ちょっと心が冷たいところがありますが、真っ直ぐな人なのでどうか信じて支えてあげてください」
丁寧に頭を下げる、千鶴。

「あ…はい…!
こちらこそ…」

「ちづちゃん、行くよ!」
「うん!
じゃあ、失礼します!」

微笑む千鶴を、ジッと見つめる本間。
「………」
そんな本間を見る、朱李。

「ちづちゃん」
「ん?」
「悪いけど、会計しててくれない?
俺、本間と話があるから」

「うん、わかった!」
千鶴がパタパタとレジに向かうのを確認すると、本間に向き直った朱李。


「━━━━━━何の用だ?」

「え?」

「お前、俺に用があるから“ずっと”つけてたんだろ?」

「━━━━━━!!!?」

「フッ…バレバレ(笑)
つか、お前もバカだなぁー
千鶴にまんまと話しかけられやがって!」

「………」

「で?なんだよ」

「比々野のことです」
「は?」

「なんであんな真面目な良い社員を辞めさせたんですか?」

「は?
比々野は“自主退職”だぞ?」

比々野は“あの一件”の後、自主退職したのだ。

「確かに、自主退職です。
しかし、副社長がそうなるように誘導したに違いない!」

「は?違うし!
まぁ別に、どっちでもいいけど!
………とにかく!もう、俺をつけるなよ?
ウザいし、キモい!」

後ろ手に手を振り、ショップを出たのだった。


「クソッ!!
なんであんな若造が、副社長なんだ!!
会長の息子だからって、調子に乗りやがって!」

本間は、水の入ったグラスを握りしめていた。
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