冷酷・楠木副社長は妻にだけは敵わない
本間は千鶴の姿を見て、心の中のつっかえが取れたような気分だった。

会長である朱果・朱李の父親に、一度だけ食ってかかったことがある、本間。

朱李が、副社長に就任した時だ。

その時に、言われたこと。

『もっと、朱李の本質を見ろ!
あいつを“冷酷”という言葉だけで、片付けるな!
そんなんだから、お前は“専務”のままなんだ!』
と━━━━━━

ずっと、引っ掛かっていた。

“何故、朱李が副社長なのか”と。

そして目の前にいる千鶴のことも、正直バカにしていた。
朱李みたいな奴と結婚した、バカだと。

バカだから、こんな男にひっかかるのだと。


しかし今の千鶴の話を聞いて、バカは自分自身だと思い知らされたのだ。

自分は、外見しか見てなかった。

朱果は頭が良くて、穏やかだから社長に相応しい。
朱李は頭は良いが、冷たいから副社長失格だと。

よく考えればこんなに冷酷な朱李でも、社員達の中には慕っている社員もいる。

確かに、朱李のことを悪く言う社員はいないのだ。


「………悪かった」

「え?」

「僕が、間違っていた。
確かに、君の言う通りだな……」

「本間さん…」

「君は、凄いな。
まさか、会社まで来てこんな真っ直ぐに意見をぶつけてくるとは思ってなかった。
僕は不満があっても、結局自分自身の身を守る為に、会長や社長に意見すらできなかったのに」

「そんな……」

「辞めるべきなのは、僕の方だよな」

「え……」

本間は深く頭を下げ、踵を返した。

「え?え?
本間さん!!ちょっと待っ━━━━━━」

その時だった━━━━━━━
本間を追いかけようとした千鶴。
急に公園から飛び出した為、走ってきたバイクにぶつかってしまったのだ。


キィィーーーーーー!!!!!!


「奥さん!!!!?」


千鶴は…………

救急車で、病院に運ばれた。
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