冷酷・楠木副社長は妻にだけは敵わない
はぁはぁはぁ…………

「「千鶴は!!?」」

病院に、朱李と朱果が駆けつけてきた。

「幸い……腕の骨折だけで、命に別状ないそうです」
項垂れていた本間が、ゆっくり答えた。


ガン!!と壁を殴る、朱李。

「副社長!!申し訳ありませんでした!」
本間が土下座をして謝る。

「何で、お前が謝るんだよ」
「本間さん?顔を上げてよ!」
朱李と朱果が言う。


本間は、全てを朱李と朱果に話した。

全て━━━━━━



「そうか」
朱李は、一言だけ言った。

「本間さん、千鶴の言う通りだよ」
朱果が本間を立ち上がらせながら言う。

「え?」

「朱李は、いつも会社のことを考えて悪者になってくれてるんだよ?」

「社長…」

「比々野さんは、確かに真面目で不器用な人だった。
でも…………それに加えて計算高い人だった」

「え………比々野が!?」

「朱李の懐に入る為に、演じてたんだ。
………でも、演じきれなかったんだろうね。
やっぱり真面目な人だから、耐えられなくなって“自主退職”したんだよ」

「そう…だったんですか……?」

「小田山さんと篠崎さんのことも、確かに厳しいことを言ってた。
でも、やっぱり朱李は“会社の為に”クビだって言ったんだ。
車に重要書類を入れたまま放置なんて、本来許されないからね!
書類は、会社の命とも言えるから。
鈴町さんのことも、彼女が他の社員に嫌がらせをしてたからだし。
“全て”会社の為だよ?
俺達が、少しでも気持ちよく仕事が出きるようにする為」


「本間」
朱李が、静かに口を開いた。

「はい」

「お前、クビだ」

「はい」

「明日、退職届を出せよ」

「はい」

「お前なら、他でもやってけるだろ?」

「…………それはわかりませんが…(笑)
また、一からやり直します」

「それがいいな」

「本間さん、父さんの代から支えてくれてありがとう!」
朱果が微笑みお礼を言う。

無表情な朱李。
でも、話す声色は穏やかだった。

そして本間は、深く頭を下げ去っていった。


「━━━━━ごめんね、心配かけて!」

「そうだよ、千鶴!」
「俺達の方が、死ぬかと思っただろ!?」

「ごめんね!」

「…………でも、ちづちゃん」

「ん?」

「ありがとな!」

「え?」

「ちづちゃんは、最初から俺自身を真っ正面から見てくれる。
……………そうゆうとこ大好きだし、尊敬してる!」

「朱李くん…」

「ありがと!」

朱李は、千鶴にキスをするのだった。
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