冷酷・楠木副社長は妻にだけは敵わない
イベント当日━━━━━━━

「じゃじゃぁーん!!」
着替えた千鶴が、ソファに座っていた朱李の前に出てくる。

天使の格好をした、千鶴がいた。

(や、ヤバい…////)

「どう?朱李くん?」

(なんだ、これ…////)

「朱李くん?」

(可愛すぎだろ…////)

「朱李くーん?」

(この格好で、行くんだよな?)

「朱李くん、聞いてる?」

(やっぱダメだ!!)

「朱李くん!!」

「千鶴!!」

「へ!?」

「ダメだ!それ」

「え?似合わない?」

「………」
(似合う!可愛すぎて、どうにかなる!)

「朱李くん?」

「似合わない」

「え………似合わ…ない?」

「うん、似合わない。
千鶴、やっぱやめとけよ。コスプレ。
旅館は、俺が自費で連れてってやる!」

「………」

「ちづちゃん、着替えな!」

「……やだ…」

「は?」

「やだ!!」

「ちづ…る…」

千鶴は、涙を溜めて朱李を睨み付けていた。
正直、この天使には自信があった。
事前に沙都やゆかりに見てもらい、大絶賛を受けたからだ。
丁度その時、周太もいて“可愛い”と言ってもらえたのだ。

「もういいよ!
朱李くんは、来なくていいから!
私、一人で行ってくる!」

「は?」
スタスタと玄関を出ていく。
慌てて追いかける、朱李。

「千鶴!!待てよ!」
千鶴の腕を掴んだ。

「嫌!!来ないで!!」

「━━━━━っ━!!!!?」

涙目で睨み付けてくる、千鶴。
思わず朱李は、手を離してしまった。

そして、思ってもいない言葉が……朱李の口から出た。
「…………勝手にしろ…」

「え………」


「勝手にしろ!!!」


朱李の突き放すような、言葉と態度。

初めてだった━━━━━

千鶴に向けたのは、初めてのことだ。

「……うん…勝手にする……」
そう呟くと、千鶴はそのまま出ていってしまったのだ。
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