冷酷・楠木副社長は妻にだけは敵わない
トボトボと歩き、沙都の家に向かう千鶴。


こんなことがしたかったんじゃない━━━━━━


ただ一言、朱李に“可愛い”と言ってほしかっただけ。

朱李が本気でイベントに行くなと言うなら、行くつもりなんかなかった。

でも朱李の“似合わない”が心に深く突き刺さり、ついあのような態度をとってしまったのだ。



そして、朱李も。


あんなことを言いたかったんじゃない━━━━━━


ただ……あまりにも可愛すぎて、自分だけのモノにしたかっただけ。

千鶴がそれでも行きたいと言うなら、自分がガッチリ牽制してついていくつもりだった。

しかし千鶴の涙目での鋭い視線と態度が、朱李の心を傷つけあんなことを言ってしまったのだ。

朱李は、玄関で項垂れるように壁に寄りかかった。



「━━━━━ちづ!?ど、どうしたの!?」
沙都の家に着き、中に入れてもらう。

「沙都ちゃ……私…」

声を上げて泣く千鶴。

「何があったの!?ゆっくりでいいから、話しな!」


千鶴は、沙都に全て話す。
「沙都ちゃん、私……
朱李くんに、嫌われちゃった……」

「それはないと思うわよ。
でも、初めてね」

「え?」

「喧嘩」

「あ…そう、かも?」

「どうする?イベント、やめる?」

「でも、フィギュア……」

「そうね。
“本当の狙いは”そのフィギュアだもんね!」


そう━━━━━

高級旅館は、あくまでおまけ。
千鶴の本当の狙いは、朱李の大好きな漫画キャラクターのフィギュアなのだ。

そのイベントは、あるアニメ製作会社主催のイベントだ。
なのでこのイベントの特別賞は、この会社の経営する店の商品交換券なのだ。
その券は、店の中の商品を“どれでも”一つだけ無料で交換できる券。

その為特別賞を取ることができれば、券をゲットすることが出きるのだ。

店には、何十万も何百万するフィギュアやグッズがある。
そのなかには、朱李の大好きな漫画の好きなキャラクターのフィギュアもある。

そのフィギュアは、以前千鶴が掃除中に壊してしまったフィギュア。
あの時、朱李は嫌な顔一つせず許してくれた。

でも本当は、かなりムカついてたに違いない。

沙都にこのイベントことを聞いて、千鶴は“朱李の為に”参加しようと決心したのだ。
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