冷酷・楠木副社長は妻にだけは敵わない
「千鶴……」

「しかも!
あー、この話を聞いてもキレんなよ?
ダチの一人が、ふざけてちづに言ったんだ。
“俺と一晩共にしたら、ここに持ってきてやる”って」

「は?」
朱李の雰囲気が落ちる。

「だからぁ!冗談だって!
そしたらちづ、身体ぶるぶる震わせて“……わかりました”って。
さすがに俺が一喝したが、ちづ…“朱李くんのためなら何でもする”って!」

「そうか…」

「ちづは、お前に似てる」

「え?」

「夫婦はよく似るって言うのかな?
ちづも、お前の為ならきっと…地獄でも喜んで飛び込む。
いつだって朱李の幸せを考えてて、朱李に笑っててほしいと願ってる。
今回のイベントも特別賞を勝ち取れば、◯◯のフィギュアが手に入るんだ。
だからちづは、決心したんだ」

「千鶴…」

「朱李」

「え?」

「行くぞ!」

「え?」

「ちづの想いに答えてあげられるのは、世界でお前しかいない。
お前じゃねぇと、ちづは幸せになれない。
それにお前が笑顔になれるのは、ちづの前でだけ!
ちづは、お前の最初で最後の愛する女だろ!?」

朱李は大きく頷き、周太の運転する車に乗り込んだ。



朱李と周太がイベント会場に着くと、ちょうど“特別賞”を発表するところだった。

ステージには、千鶴・沙都・ゆかりがしっかり残っていた。

「では、まず……特別賞から発表しまーす!
………………エントリーNo.52、岸本 せりかさん!」

「………」
あからさまに、千鶴が肩を落とす。
隣にいた沙都とゆかりが、頭を撫でて慰めていた。

「千鶴…」
(もう、十分だ千鶴。
その気持ちだけで、十分だよ)

すると━━━━
「それと、もう一人」

「「「え?」」」

「本来、賞は一人ずつなんですが、特別賞は審査員の意見が真っ二つにわかれまして……
なので、お二人に送られます。
交換券も、ちゃんと二枚用意してくださるとのことですよ!
あ、でも!
交換する商品が被ったら……じゃんけんで(笑)
では、もう一人の特別賞の発表です!
エントリーNo.84 楠木 千鶴さん!」

「え………」
「ちづ…!」
「嘘…やった!」

千鶴は固まっている。

「ちづ!あんた、取ったんだよ!」
「千鶴!!」

「では、岸本さんと楠木さんはこちらへ」
二人に、特別賞の盾が渡された。
特別賞が一人増えたので、二人で盾を持つ。

「おめでとうございます!
まずは岸本さん、今のお気持ちは?」
「めっちゃ嬉しいです!
ダイエットした甲斐がありました(笑)」

「フフ…ずばり、欲しいものは?」
「◯◯の、ネックレスです!
◯◯が、劇中でつけてたヤツです!」

「おっ!確かに、あれは可愛かったですもんね!
そして、もう一人の特別賞を授章された楠木さん!
おめでとうございます!
今のお気持ちは?」

「夢みたいです……私なんかが、こんな素敵な賞をいただけるなんて!」
「楠木さんは、何に交換しますか?」

「もちろん、◯◯のフィギュアです!」

千鶴は、満面の笑みで答えた。
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