冷酷・楠木副社長は妻にだけは敵わない
それからも、朱李の固い偏狭な頭に柔らかな千鶴が入り込んでいく。

日に日に、心が奪われていったのだ。


そんなある日。
朱李は、千鶴に思いを伝えた。

朱李は、基本的にせっかちな性格。
思い立ったが吉日で、欲しいものはその時にすぐに手に入れないと気が済まない。

千鶴を、朱果から奪おうと考えていた。

しかし━━━━━
「ごめんね、朱李くん。
私は、朱果くんが好きなの。
ごめんなさい!」
と、断られてしまう。


どうしても諦めきれない朱李。

何度もアプローチを試みる。
朱果を出し抜いてデートに誘ったり、プレゼントをことある毎に贈ってみたり。

今までこんなに物事に必死になったことがあっただろうか。

朱李自身も、何故こんなに必死なのかわからないくらいだった。


そんなことを約半年間続けていた、12月。

クリスマスの日に、千鶴と朱果が泊まりがけで出かけることを知った朱李。
なんとか阻止しようと試みるも、失敗に終わった。

しかし何故か当日、朱李に千鶴から連絡があったのだ。

「え……千鶴!?
もしもし!?どうした!?」

千鶴は泣いていた。

『……っ…ひっく…朱李く…ごめんね…今から、会えないかな?』


急いで、千鶴の元に向かう。
涙のわけを聞くと、朱果にドタキャンされたらしい。
朱果の女友達の親が倒れたとかで、そちらの方に行ってしまったのだ。

その友人も、千鶴と同じで母親と子の二人だけで頼る人もいない。
友人も朱果だけだからと、朱果はそちらを優先にしたのだ。

「わかってるの。
朱果くんしか頼る人がいないからだって。
でも……こんな日に、一人にさせられるのは辛い。
…………ごめんね。
朱李くんに縋るのは、失礼だってわかってた。
でも、私も……朱李くんしかいなくて……」

朱李は、千鶴を抱き締めた。
「ううん。悪いのは、兄貴だろ?
千鶴は、何も悪くない」
そして、ゆっくり頭を撫でた。

「最近……」
「ん?」


「最近、朱果くんの優しさが残酷な時があるの」


「え?」

千鶴のポツリと言った言葉。


この言葉の意味が、この時朱李にはわからなかった。


しかしこの言葉の意味こそ、千鶴が朱果から朱李へ心が移り変わった一番の原因になる━━━━━

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