Liars or Lovers 〜嘘つき女と嘘つき男〜
Prologue 爽やか笑顔の貴公子
「ああ、良かった。来てくれないかと思った」
“桐矢 拓都”というらしい男性は、私に爽やかな笑みを向けそう言った。
「すみません、着る服迷っちゃって」
ベタな言い訳で陳謝すると、「全然大丈夫です」と声が返ってきた。
25歳。
大手企業の営業職。
年収400万。
身長178センチ、体重58キロ。
趣味はウィンタースポーツと読書。
彼女、なし。
それが、私が知っている彼の全部だ。
「佐和谷さんて、珍しい名字ですよね」
9月、まだ残暑の残る日差しの下なのに、彼は爽やかな笑みを崩さずにそう言った。
「そうですかね?」
私は答えながら、目を細めた。
午後2時。30代に突入した私には、この日差しと暑さは辛い。
「ああ、ごめんなさい。会えたのが、つい嬉しくって」
彼は後頭部をポリポリ掻きながら、駅前の広場からゆっくりと駅の方へ向かう。
陰のある場所まで来ると、改めて私と向き合った。
「桐矢さんて、気遣い上手なんですね」
「え?」
「日差しが眩しいの、気づいてくれたみたいだから」
私の言葉に、少し頬を染めた彼はヘヘッと笑った。
私より遥かに背の高い彼。見上げれば威圧感を感じそうなのに、それを全く感じないのは彼から溢れ出る柔らかい雰囲気ゆえなのだろう。
「あの、できれば名前で呼んでほしいんですけど……ダメですか?」
「えっと……拓都、さん?」
「うん、そっちのほうがいい」
拓都さんは満足そうに口角を上げる。
「俺も、名前で呼んでいいですか? その、美羽、さん……?」
トクンと胸が跳ねた。
それから、じんわりと頬が熱くなって、慌てて俯いた。
男性に名前を呼ばれるのなんて、何年ぶりだろう。
というか、名前を呼ばれただけで火照るとか、どれだけ男性に耐性がないんだ私は!
「あー……、嫌でした?」
しょんぼりとした声が頭の上から降ってきて、慌てて首を横に振った。
「違うんです! 何か、名前呼ばれるのって恥ずかしいなって……でも、全然嫌とかじゃないんで!」
「そっか、良かった」
彼はまた、私に爽やかな笑みを向けた。
それで、今度は胸がチクリと痛む。
何してるんだろう。
5歳も、年下の男の子と。
5歳も、サバ読んで、デート?
本当に、何やって……はぁ。
「とりあえず、カフェでも行きませんか?」
彼はそう言って、駅近くのコーヒーショップを指差した。
コクンとうなずくと、彼は顔を綻ばせて歩き始める。
私はその後ろを追いながら、こうなった経緯を思い返していた――
“桐矢 拓都”というらしい男性は、私に爽やかな笑みを向けそう言った。
「すみません、着る服迷っちゃって」
ベタな言い訳で陳謝すると、「全然大丈夫です」と声が返ってきた。
25歳。
大手企業の営業職。
年収400万。
身長178センチ、体重58キロ。
趣味はウィンタースポーツと読書。
彼女、なし。
それが、私が知っている彼の全部だ。
「佐和谷さんて、珍しい名字ですよね」
9月、まだ残暑の残る日差しの下なのに、彼は爽やかな笑みを崩さずにそう言った。
「そうですかね?」
私は答えながら、目を細めた。
午後2時。30代に突入した私には、この日差しと暑さは辛い。
「ああ、ごめんなさい。会えたのが、つい嬉しくって」
彼は後頭部をポリポリ掻きながら、駅前の広場からゆっくりと駅の方へ向かう。
陰のある場所まで来ると、改めて私と向き合った。
「桐矢さんて、気遣い上手なんですね」
「え?」
「日差しが眩しいの、気づいてくれたみたいだから」
私の言葉に、少し頬を染めた彼はヘヘッと笑った。
私より遥かに背の高い彼。見上げれば威圧感を感じそうなのに、それを全く感じないのは彼から溢れ出る柔らかい雰囲気ゆえなのだろう。
「あの、できれば名前で呼んでほしいんですけど……ダメですか?」
「えっと……拓都、さん?」
「うん、そっちのほうがいい」
拓都さんは満足そうに口角を上げる。
「俺も、名前で呼んでいいですか? その、美羽、さん……?」
トクンと胸が跳ねた。
それから、じんわりと頬が熱くなって、慌てて俯いた。
男性に名前を呼ばれるのなんて、何年ぶりだろう。
というか、名前を呼ばれただけで火照るとか、どれだけ男性に耐性がないんだ私は!
「あー……、嫌でした?」
しょんぼりとした声が頭の上から降ってきて、慌てて首を横に振った。
「違うんです! 何か、名前呼ばれるのって恥ずかしいなって……でも、全然嫌とかじゃないんで!」
「そっか、良かった」
彼はまた、私に爽やかな笑みを向けた。
それで、今度は胸がチクリと痛む。
何してるんだろう。
5歳も、年下の男の子と。
5歳も、サバ読んで、デート?
本当に、何やって……はぁ。
「とりあえず、カフェでも行きませんか?」
彼はそう言って、駅近くのコーヒーショップを指差した。
コクンとうなずくと、彼は顔を綻ばせて歩き始める。
私はその後ろを追いながら、こうなった経緯を思い返していた――
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