Liars or Lovers 〜嘘つき女と嘘つき男〜

3 2度目のデート

「美羽さん」

 拓都さんが私を呼ぶ声がする。そちらを見れば、ブンブンとこちらに手を振る彼の姿。

 ああ、良かった、来てくれた。

 前回彼に言われたことと、全く同じことを思った。
 年の差、5歳。
 まだまだ仕事も忙しい年頃の彼。
 恋の賞味期限切れの私。

 そんな私たちが、一緒にいるなんて。

 奇跡にも近いその事実に、胸がトクトクと弾みだす。
 若ければスキップでもしたいところだ。

「その格好……」
「変、かな」

 金曜の夜、妹を連れ回し大人なデート服を買った。
 前回のコーディネートは30代に突入した私には痛かったのだ。

 今日は、袖口にだけフリルのある藤色のシャツに、白のロングスカート。鞄と靴だけは妹に借りたけれど。

「ううん、何か雰囲気大人だなって」
「うん、大人ですから」
「じゃあ、前回は無理してたんだ」
「……してた」

 ふふっと笑いながら、拓都さんは私の頭を撫でる。

「似合ってる。可愛いよ」

 それだけで、胸がまた高鳴るし表情筋が勝手に緩む。

「となると、俺、ガキかなぁ……」

 途端に自身の格好をキョロキョロと気にしだす拓都さんに、私も思わずクスっと笑った。

「ううん、かっこいい」

 そう返すと、拓都さんは「そういうの、ズルい」とそっぽを向いてしまった。

「今日はどこ行く?」
「プラネタリウム。好き?」

 デートの定番だな、と思いつつ、最後に行ったのはいつだっけと記憶をたどる。

「多分、小学生以来かな」
「あんまり好きじゃなかった……?」
「ううん、星を見るのは好き。それに……」

 私は立ったままの拓都さんの手を、きゅっと握った。

「拓都さんと行くところなら、どこでも好きになると思う」

 言ってから後悔した。
 なに恥ずかしいこと言ってるんだろう。
 30にもなって、恋愛偏差値が中学生みたい。

 俯いた私の手を、拓都さんはきゅっと握り返してくれた。

「それは、俺も一緒」

 きっと拓都さんは爽やかな笑みを浮かべている。
 そんな気がしたけれど、結局恥ずかしくて顔をあげることはできなかった。
< 10 / 22 >

この作品をシェア

pagetop