Liars or Lovers 〜嘘つき女と嘘つき男〜
 プラネタリウムに入って、驚いた。
 少なくとも、私の知っているプラネタリウムには、こんな席はない。

「ほら、こっちおいでよ」

 拓都さんがゴロンと横になったのは、ペアシートという場所。丸いベッド型の座席に、クッションが2つ並んでいる。
 拓都さんは自身の隣をトントンと叩き、私が来るのを催促する。

「こんなところに、横になるの?」
「ん。普通の席より首疲れなくていいよ。それに、頭の方が高くなってるから、後ろの人の視線も気にならない。……まあ、上映中はみんな天井に釘付けだろうけど」

 拓都さんはケラケラ笑って、もう一度自身の横をトントン叩いた。
 意を決して、彼の隣で横になる。

 すると、私の頭の下には、なぜか彼の腕が差し込まれていた。

「腕枕。嫌?」
「嫌じゃ、ないです……けど、多分私、頭重いから……」

 拓都さんは笑った。その声が耳元で響いて、思わず肩がピクリと震えた。

 こんなに近いところに、拓都さんがいる。
 それだけで、胸がバクバクとすごい音を立て始める。
 拓都さんに聞こえちゃうんじゃないかと、慌てて距離を取ろうとするも、拓都さんの左手がそれを阻止した。
 腕枕の手が、そのまま私の頭をホールドしたのだ。

「行かないで……?」

 まるで駄々をこねる子供のように、切ない声が耳に届く。
 天井を見上げていた私は、ふと右を向いた。彼もこちらを見ていた。
 至近距離で拓都さんと目が合う。
 彼の瞳に、私がはっきりと映る位の距離で。

 切なげに揺れる彼の瞳の奥で、私はどんな顔をしているのだろう。

 じっと見つめていると、不意に彼の顔がこちらに向かってくる。
 ゆっくりと、ゆっくりと。

 知ってる。これは、多分――。

 目を閉じると、ドクンドクンと心臓の音がやたら大きく聞こえた。

「美羽さん……」

 名前を呼ぶ声が、やたらに甘く聞こえる。
 きっと、このまま――


 ブーー。


 開演のブザーの音に、慌てて目を開け顔を上に向けた。
 場内が、暗くなる。
 それで、ほう、と安堵の息をついた。

 けれど、まだ胸はドキドキと高鳴り収まる気配がない。

 もしブザーが鳴らなかったら、私、そのまま……?

 はっとして、ぽっとして、ふるふると頭を振った。
 すると、隣から小さく笑い声が聞こえる。

「ごめんごめん」

 ペチっと右手で彼の脇腹を叩く。
 またふふっと笑い声が聞こえた。

 ちらっと右を見れば、拓都さんは天井を見上げていた。

 暗闇でも分かる、すっと通った鼻筋。
 羨ましいくらいに、くっきりと二重な目元。

 ああ、好きだなあ。
 こんな人の、隣にいるだなんて。

 もう、隠し事なんて何もない。
 気になるのは、その年の差くらいで。
 でも、拓都さんだって、それをいいって言ってくれたんだ。
 だから、私は――。

 頭上で流れる星の物語なんて頭に入らず、ただ拓都さんの横顔を眺める。
 幸せな気持ちに満たされるのに、漠然とした不安が胸をよぎる。

 すると突然こちらを向いた拓都さんが、爽やかな笑みを向ける。

「そんなに見ないでよ」

 バレてた。
 でも、そのひそひそ声も内緒話をするようで、私の胸を甘く疼かせる。

「いいじゃん、減るもんじゃないし」
「そっか、確かに」

 納得したように視線を上に戻した拓都さんは、また私の方に顔を向けた。

「ねえ、キスしていい?」
「え?」
「さっきの続き」
「ダメだよ、こんなところで……」
「いいじゃん。減るもんじゃないし」

 目を細めた拓都さんは、そのまま腕枕の手で私の髪を撫でる。

 頭上では、遠い昔の人が作ったらしい星の話が流れている。
 なのに、私たちだけは違う世界にいるようで。

「やっぱり、ダメ。だって、ここ……」

 甘い空気にぼだされそうになるも、理性が何とか歯止めをかけた。
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