Liars or Lovers 〜嘘つき女と嘘つき男〜
「つまんないよ、そんな話」

 はあ、とため息をこぼした。
 あの衝撃映像は、できれば思い出したくない。

「でも、美羽さんのことは知りたい。だから……」

 きゅうっと繋がれた手に力が戻って、私はふう、と息を吐き出した。

「彼氏がいたのは8年前。大学生の時だよ。しかもね、浮気が原因で別れたの」

 そう、私が恋愛から遠ざかってしまったのは、全部あの日のせい。

 まだ一人暮らしをしていたあの頃。
 当時の彼氏とは下宿先が近くて、よくお互いの部屋を行ったり来たりしていた。
 その日、たまたま4限が休講になって、私は夕飯を作って一緒に食べようと、彼の部屋に向かっていた。持っていた合鍵で、彼の部屋のドアを開ける。
 と、何かが軋む音と、女性の声が聞こえた。それも、かなり過激な嬌声が。
 この間見つけたアダルトDVDでも見ているのかと、部屋のドアを開けた。
 けれど、その瞬間、私の頭は真っ白になった。

 目の前にいたのは、裸で抱き合う、男女。
 知らない女と、私の彼氏のはずの人。
 それも、かなり過激な体勢で、思いっきり腰をぶつけあっていたのだ。

「それから、恋愛なんてご無沙汰」

 残っていたビールをあおった。
 いつの間にか、握られていたはずの手は解かれていた。

「ね、だからつまんないって言ったでしょ?」

 私はおかわりを頼んだ。
 すると、拓都さんも残っていたビールをあおぎ、「俺も」とジョッキを掲げた。

 注文したおかわりが運ばれてくるまで、沈黙が続いた。
 こんな話、しなければよかった。
 リカバーの仕方が、私には分からない。

 やがておかわりのジョッキが届くと、それを皮切りに拓都さんが言った。

「俺で、良かった?」
「え?」
「出会えたの、俺で良かった?」

 ジョッキを持ったまま、泣きそうな目でこちらを見つめる拓都さん。
 私は新しいビールをゴクリと飲みこんだ。

「うん、拓都さんで、良かった」

 じわりと目頭が熱くなって、下唇を噛んだ。

「恋が楽しいものだって、思い出させてくれたから」

 傷付きたくないから、逃げてた。
 そうしているうちに、賞味期限が切れてた。
 そんな私を、こんな気持にしてくれたのは、拓都さんの優しさのおかげ。

 ああ、好きだなあ。
 そう思えば思うほど、涙がこぼれそうになる。
 心から恋を楽しめないのは、本気でこの人に恋して良いのか、疑心暗鬼になるから。

 でもね。
 今、君が好きだって、心が叫んでる。

 だから、もどかしい。
 歳をバラしたときに、離れてくれればよかったのに。
 そんな賞味期限切れの女はいりませんって、突き返してくれれば良かったのに。

 どうして、君はそんなに優しいの?

 心のなかで、口にできない想いが溢れていく。
 それらが、堪えきれなくなってホロホロと溢れ出した。

「美羽さんが泣いてるのは……俺に、恋してるから?」
「ごめん……恋してるのに、泣くなんて。おかしいよね」

 けれど、涙が止まらなかった。

「そっか。恋してくれたんだ」

 拓都さんは私の頭を、優しく撫でる。

「好きになってくれたんだ。こんな、俺を」
< 14 / 22 >

この作品をシェア

pagetop