Liars or Lovers 〜嘘つき女と嘘つき男〜
 5歳も年下の拓都さんに、頭を撫でられている。
 その事実に申し訳無さが溢れて、涙を誤魔化そうと顔を上げた。
 ふとテーブルを見ると、もう彼のジョッキは空になっている。

「おかわり、頼む?」
「え? あー、うん」

 どこかほわほわとした返答に、疑問符が浮かぶも同じものを注文した。

「美羽さん、もう平気?」
「うん、ありがとう」
「良かった……」

 彼は運ばれてきたビールを、今度は半分一気に飲んだ。

「ねえ、美羽さん」

 拓都さんは、やっぱりどこかほわほわしている。

「大丈夫? 酔ってない?」

 私が過去の話をしたせいだとしたら、その責任は重大だ。
 やっぱりしなければよかった。
 あんな話なんて。

「うん。へーきへーき」

 そう言いながらも、今度は私の肩に頭をこてんと預けてきた。

「ねえ、拓都さん、本当に……」
「へーき。弱くないもん……多分」
「多分って?」
「お酒、初めて飲んだからさ〜」
「え!? 拓都さん、あの企業の営業だよね? 付き合いで飲み会とか――」
「え? あー、そーいや、そうだったかも」

 ふにゃんと笑う拓都さん。
 もう、普通じゃない。

「あれ、信じた?」

 その言葉に、背筋がぞわりとなる。
 え……?

「あんなの、大嘘。俺、今日20歳なったばっかだし」
「ハタチ……?」
「ん。美羽さん、ざーんねん。俺、大学生でした」

 私の肩にもたげていた頭を起こした拓都さんは、そのままピースサインを私に向ける。

「あのアプリ、すごいよね〜。売れ残った私どーぞ食べてくださいって、差し出す女ばっか。ちょっと優しくすれば、簡単にヤれる。女はみんな一緒なの。女はみんなバカなの」

 拓都さんは、残りのビールをあおった。
 けれど、そんなことはどうでもいい。
 真っ白になった頭の中に、黒い感情がどんどん渦巻いてくる。

「ねえ、美羽さん。今からでも俺とシない? その元カレがしてたすごいやつさ、シてみない?」

 拓都さんの左手が、私の腿に触れる。
 背中にぞくっと嫌な汗が流れて、慌ててその手を払い除けた。

「嘘だったの? 全部。あの、楽しかったデートも」
「うん、嘘。大嘘。ぜーんぶ、美羽さんとヤるための算段に決まってんじゃん」

 嘘でしょ。

「ね、今からホテル行こ? 美羽さんさえ落とせれば、100人目の――」

 やめてよ。
 誰か、嘘だって言ってよ。

 私がトキメいたのは、

 私が心踊らせてたのは、

 私に、前を向こうと思わせてくれたのは、


 ――私より10歳も年下の、クズな大学生だったなんて。
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