Liars or Lovers 〜嘘つき女と嘘つき男〜
 はっと目が覚めた。
 日に照らされた部屋のカーテンが、私に朝を伝えてくる。

 暗闇の中に消えていく彼に、手を伸ばしていた。

「嘘、やだ……」

 はあとため息が溢れた。
 がしがしと頭を掻くと、私はベッドからのそのそと起き上がる。

「あ、お姉、おはよ」

 リビングのドアを開けると、美玖が牛乳をグラスに注いでいた。

「ん、はよ」

 昨夜はデートで朝帰りだったらしい。
 まだ昨日の服のままの妹を見て、また勝手にため息が漏れる。

「あの人、アプリやめちゃったね」

 唐突な話題に、私は美玖の顔を見た。
 すると美玖のぎょっとした顔が目に映って、私は相当酷い顔をしているんだと察した。

「ごめん、お姉といい感じになったのかと思ったんだけど」

 悪気が無いのは分かってる。
 けれど、流石に胸に刺さった。
 それでも、とんでもない最低なクズ野郎だったなんて、今は美玖に言う気にはなれなかった。

「あの人とはもう会わないよ」

 どんなにトキメいたって。
 どんなに心が欲したって。

 彼は、サイテーな人だった。
 忘れなきゃ。

 私は朝ごはんを食べる気にはなれず、冷たいシャワーを浴びると化粧もそこそこにそのまま仕事へ向かった。

 ◇  ◇  ◇

 心が落ち込んでいると、作業能率が落ちるらしい。
 今日は仕事を始めてから一番と言っていいほど仕事が進まない。それに、終わった作業もミスばかりだ。

 だから、恋なんてしたくなかった。
 傷付きたくなかったんだよ。
 フラッシュバックする、大学生の頃の最悪の思い出。
 私の腿を撫でた、あの手。

 けれどその直後に、涙を流す彼の顔が脳裏に浮かんで、慌ててブンブンと頭を横に振った。

 どうでもいい。
 あんなサイテーなクズ野郎、どうだって……。

 オフィスに誰もいなくなった午後9時過ぎ。
 いい加減帰らなきゃと、まだ終わらない今日の業務を強制終了させて、パソコンの電源を落とす。

 スマホを鞄に突っ込もうと手に取る。
 すると急に、ブルブル震えだした。

「うわ!」

 落としかけたそれをしっかりと握り直す。
 けれど、その画面を見たら、スマホが手から滑り落ちてしまった。

 それは、今一番思い出したくない人からの、メッセージだった。

[もう一度だけ、会ってくれませんか?]
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