Liars or Lovers 〜嘘つき女と嘘つき男〜

2 謝罪と期待

[今度はいつ会える?]

 拓都さんと別れてからすぐ、一人きり、電車の中。こんなメッセージが届いて、胸が踊った。
 アプリではなく直接やりとりしたいと、拓都さんと連絡先を交換したのだ。

 けれど、そんな気持ちはすぐに萎んでいく。
 彼、年下なんだよなあ。5歳も。

 膝上丈のスカート、履き慣れないサンダル。
 そんな自身の格好を見下ろして、ため息が漏れた。

 どうして『また会いたい』なんて言ってしまったんだろう。
 拓都さんは、私が30だって知ったらどう思うだろう。

 だって、私は“賞味期限の切れたオバサン”。

 ◇  ◇  ◇

「あ、お姉おかえり!」

 帰ると、バタバタと美玖が私を出迎える。

「どうだった?」

 そう聞いてくる美玖に、言葉を返す気になれなかった。

「ねえ、お姉ってば!」
「嘘って、良くないよね」
「え?」

 美玖はギクっと肩を揺らし、それから「ごめん」と小声で続けた。

「いい人だったよ。すごく。だから、余計に――」

 胸がキュウと苦しくなった。
 喉の奥を絞められているような気分になった。
 目頭がじわんと熱くなった。
 鼻の奥が、ツンとした。

「お姉……」

 美玖は私の顔をじっと見つめた。
 きっと、変な顔をしている。

 美玖はそんな私の肩をポンと叩いた。

「年齢のことは、本当にごめん。でもさ、お姉がいい人だって思えたってことは、それだけ相手もお姉に良くしてあげようって思ったってことじゃない?」
「え?」
「相手の人も、お姉のこと本気なんじゃないかな」
「だったら余計に!」

 拓都さんが見てたのは、“25歳”の私。
 拓都さんが守ってくれたのは、“同い年”の私。
 拓都さんがまた会いたいって言ってくれたのは、“賞味期限の切れた私”じゃない。

「好きになっちゃったんだもん……」

 我慢していたはずの涙が、ほろりと溢れた。
 何て自分勝手な理由で泣いているんだろう。

「だったらさ、早くバラさなきゃ」
「でも……」
「好きなら、言わなきゃ。だって、嘘ついたままなんて、そんなのお互い不幸になる。相手の人がお姉の人柄をいいって思ってくれてるなら、年齢なんて関係ないって言うと思うよ」

「なんて、私が言えたことじゃないけど」と美玖は付け足して、私の肩をもう一度ポンと叩いた。
 

 拓都さん、あなたは――

 “賞味期限の切れた女”でも、いいですか?
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