Liars or Lovers 〜嘘つき女と嘘つき男〜
「嘘をついたままじゃお互い不幸になる、か……」

 自身のベッドの上でゴロンと横になる。
 妹とのルームシェアと言えども、寝室だけは別で良かった。

 私は帰り道に届いたメッセージを見つめた。

 “早く会いたい。”

 そんな気持ちが伝わってきて、また胸が痛んだ。

 拓都さん、私が30だって知っても、また会ってくれますか――?

 泣きそうになるのを堪えて、何度も何度も文章を打っては消した。
 何て伝えればいい?
 何て伝えれば怒らない?
 何て伝えれば許してくれる?

 嫌われるかもしれない不安と、会えなくなるかもしれない恐怖が胸を襲う。

 ――でも、伝えなきゃ。

 何度書き直したか分からない文章を、最後はシンプルなものにして送信した。

[今日はありがとう。今、電話してもいい?]


 すると、とたんにスマホが震えて、思わずビクリと身体が跳ねた。
 通話ボタンをタップし、そっと耳にスマホを当てる。

「良かったぁ、返信来て安心した」
「え、あ、あっと……どうも」
「ふふ、美羽さん」

 少しだけ、私の名前を呼ぶ語尾が上がっている気がする。
 きっと電話の向こう側であの爽やかな笑みを浮かべているのだろう。
 部屋でくつろいでいる拓都さんを想像して、嬉しくなって、でもすぐに罪悪感が胸を支配した。

 ごめん、拓都さん。私、嘘ついてる。

「なかなか返信来ないからさ、ちょっとがっつきすぎだったかな、とか、色々反省してた」
「全然、そんなことない! っていうか、むしろ、嬉しかったし……」
「ふふ、ありがとう。今日は楽しかったし、寝る前にこうして美羽さんの声も聞けたし……最高」

 すぐ耳元で聞こえる、拓都さんの声。
 直接会った時とはまた違う、少し低い声に、胸がズキズキと痛みだす。

 言わなきゃ。
 意を決して、返信したんだから。

「あ、あのね! 電話してもいいか聞いたのは、話しておきたいことがあって……」

「ん?」と、優しい低音ボイスが耳に届く。
 その一言だけでも、私の緊張を高めるには十分だった。

 唇が乾いた。
 胸が苦しくなって、上手に呼吸ができない。

 でも、言わなきゃ。

「どうしたの? 美羽さん、もしかして――」

 下唇を噛んだけど、遅かった。
 両目から涙が溢れて、思わず鼻をすする。

「泣いてるの!? 何で? え、俺、何かしちゃった?」

 電話口の向こうで、拓都さんはあわあわ慌てだす。

「ち、違うの! あの、ね……あの……」
「ん、ゆっくりでいいよ?」
「……」

 黙ってしまった私の続きを、催促せずにじっと待ってくれる彼。
 その優しさに、また胸がキュウっとなった。

「あのね……」
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