誓ったはずの、きみへの愛

 きちんと話を聞けばよかった。理由もなく他者を害したり裏切るような子ではないと誰より知っていたのに。彼女が変わってしまった、話そうとしなかったから、そんなものは言い訳でしかない。どうせ泣かせるのなら、無理矢理にでも問い詰めればよかった。

「……僕は、メリッサの最期を知らなければならないと、その義務があるのではないかと、思います」

 過去は取り返せない。わかっている。
 それでも、だからこそ、何か大事なことを見落としているのではないかと、焦燥感が腹の底を焦がすような心地がどうにも止まず、突き動かされてここまで来た。

「あの子は毒を呷って自殺を図った」

 告げられた事実に、その声音に、心臓が絞られるような痛みが走る。

「娘は我々にも何も話してはくれなかったよ。君に婚約解消について相談されて確認した時にも、解消となった後も。君に、我々に、申し訳ないと謝るばかりだった。……泣きたかったろうに」

 伯爵はこの一年のメリッサを思い浮かべているのだろう、歯を食いしばり感情を抑え込む。

「婚約解消に応じなければよかったと悔いているよ。目撃者が何人いようとあの子を信じていたのに、調査が遅れた、無実を証明してやれなかった」

 握り締めたこぶしが震えていた。
 伯爵があの手この手で調べようとしていたことは僕も知っている。ツテを辿り、使えるものは使おうとしていた。しかしそれが、娘の悪行を伏せるための根回しをしているのではと勘繰られてしまった。伯爵家に対する噂までもが飛び交って、そうしてすべてが後手に回ることになった。

「……あの時は、ほとぼりを冷ますのが先決だと」
「ああ、こちらもあの子をあのまま晒し者にしたくないと思ったから同意した。……目撃証言が多かったのも事実だ」

 まさかそんなはずはないと、メリッサの潔白を信じようとした気持ちは同じ。
 しかし目撃証言は次々と出た。メリッサはキャンベル嬢を見かけるたびに睨みつけたし、飲み物をかけ、突き飛ばした。キャンベル嬢が盛られた毒物が部屋から見つかり、それを販売していたと思われる異国の商人とやり取りしていたと証言のあった令嬢の容姿は、まさに彼女そのものだった。

 いつからか僕の知るものと異なる様子を見せていたメリッサ。
 それでも信じ続けた伯爵が僕を憎むのは仕方がないことだ。

「……よりにもよって元凶と縁づこうなどと……」

 苦しげに、憎々しげに。伯爵の吐き出した言葉こそ聞き取れなかったものの、その響きと雰囲気にたじろぐ。

「あの……?」
「……部屋はそのままにしてある。案内は必要ないだろう」
「はい、失礼します」

 一礼して伯爵に背を向け、迷うことなくメリッサの部屋に向かった。
 時折使用人とすれ違う。向けられる不躾なまでの視線はどれも刺すように感じられたが、僕には抗えるはずもない。

 部屋は伯爵の言う通りそのままにされているのだろう、入ったことは数える程度だったけど、どこからか「お待たせしました」と聞こえてくるような気がして、そんなわけがないのに思わず振り返る。
 もちろん誰がいるはずもなく、主人のいない部屋に一人立ち尽くしている現実に足が竦んだ。
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