【6月7日書籍発売コミカライズ決定】鬼騎士団長様がキュートな乙女系カフェに毎朝コーヒーを飲みに来ます。……平凡な私を溺愛しているからって、本気ですか?

「……もうすぐ、領地です」
「ああ、懐かしいな」
「ええ」

 魔獣に嵐に地震、流行病。
 王家から途絶えた支援金。

「……流行病については、人為的だった可能性がある」
「そんなこと、可能なのですか」
「可能だろう。……騎士団長に就いてから、いくつかの事例を見たことがある」
「……騎士団長様」

 レトリック男爵領が、没落寸前まで追い詰められたことに、人為的な何かが関係していたことは、怖いし、不安だし、怒りも感じる。

 ……でも、私は思っていたよりも、利己的な人間だったみたいだ。
 領地よりも、むしろそんな情報を得てしまうような地位にいる騎士団長様のことが心配になってしまうなんて。

「どうした? 不安にさせてしまったか。レトリック男爵領は、これから先、必ず守るから心配するな」
「はい」

 それでも、浮かない顔をしてしまった私の頭を、そっと大きな手が撫でた。
 子ども扱い、そう思っていたけれど、どちらかといえば私は騎士団長様の庇護対象なのだろう。

「騎士団長様」
「……そんな顔をさせるくらいなら、話さなければよかった」
「隣に座っていいですか」

 パチパチと、明るい南洋の海みたいな瞳が瞬いた。
 ドキリとした胸の音に、私は、本当にこの色が、好きになってしまったのだと、思い知らされる。

「こんなこというと、自分勝手だと思われてしまいそうですが」
「……リティリアは、もっと自分勝手になったほうがいいくらいだ」
「……領地よりも、何よりも、騎士団長様に無事でいてほしいんです」

 領地のことは、ものすごく大事。
 本当に、大事に思っているし、私にできる限りのことをしていこうと思っている。
< 130 / 334 >

この作品をシェア

pagetop