【12月6日書籍2巻発売コミカライズ決定】鬼騎士団長様がキュートな乙女系カフェに毎朝コーヒーを飲みに来ます。……平凡な私を溺愛しているからって、本気ですか?
大人になってから抱き上げられたまま、走り抜ける木々を見る経験なんて、そうそう無いに違いない。
「無理していませんか?」
「羽のように軽い」
「そんなはず……」
背が小さい私と騎士団長様では、体格に大きな違いがある。
今だって、まるで軽い荷物でも抱えているかのようだ。
私は、少し余裕を取り戻して、太い首に腕を絡めて周囲を見渡した。
「あ、れ……?」
いたずら好きな、妖精たちがどこかあわてて飛び回っている。
なぜだろう、なにに警戒しているのか。
「魔力の、気配?」
次の瞬間、踏み込んではいけないぬかるみに、片足が入ってしまったように騎士団長様が姿勢を崩した。
それでも、膝をついて抱きしめてくれたから、衝撃すらなかったけれど。
そう、膝をついて。
……膝をついて?
「騎士団長様……。その姿」
「……リティリア嬢こそ、うん。可愛らしいな?」
抱きしめてくれた、まだ細くて華奢な腕は、私とそんなに変わらない。
艶々とした黒い髪の毛に、大きな淡いグリーンの瞳。最初に目が行ってしまいそうなくらい長いまつげ。
「騎士団長様こそ、想像以上の可愛さです」
目の前には、おそらく子どもの頃の姿になってしまった、騎士団長様。
そして、同じ目線に縮んでしまった私。
「……余裕があるな」
「この魔法を、知っています。それにしても可愛いですね?」
「っ、そうか。まあ、時間を操れそうな人間など、俺もひとりしか知らない」
「たぶん、騎士団長様が想像しているとおりのお方です」