【12月6日書籍2巻発売コミカライズ決定】鬼騎士団長様がキュートな乙女系カフェに毎朝コーヒーを飲みに来ます。……平凡な私を溺愛しているからって、本気ですか?
「あれっ? どちら様ですか?」
その声の主はひとりの少女だった。
ひと目で上等なものだと分かる青いワンピースに白いエプロン。
両手で掴むエプロンいっぱいに乗せていたどんぐりが、振り返った瞬間、パラパラとこぼれ落ちた。
「は……? 子ども?」
「……え? あなたも子どもに見えるけど。それにしても、どうしてそんなにブカブカの服を着ているの?」
目の前にいたのは、大きく丸い紫の瞳に、光に透けると金にも見える淡い茶色の髪をした少女だった。
「っ、いけない! すぐにここから離れ」
「具合、悪いの?」
バラバラとどんぐりが落ちていく音がして、次の瞬間そっと、頬に触れた手は、信じられないほど柔らかくて、温かかった。
「ねえ、お願い。助けてあげて?」
少女の願いを聞きとげたのだろうか。
あふれ出す魔力に興味を引かれ、俺の周りを飛び回るばかりだった妖精たちが、まばゆいばかりの光を発しながら周囲に集まってくる。
「っ、な、なにが」
「妖精さんたち、助けてくれるって」
ニコニコと無邪気に笑った少女の瞳は、淡い紫色だ。
そういえば、王都でも紫の瞳など見たことがない。
だが、王国の機密情報の中に、該当する人物がいたはずだ。
「……リティリア・レトリック男爵令嬢」
「え? 私のことを、知っているの?」
頬に触れた手は、話されることなく、飛び回る妖精たちは、あふれ出した魔力を吸い取っていく。
たった一人で迎える死を覚悟したのに……。