【12月6日書籍2巻発売コミカライズ決定】鬼騎士団長様がキュートな乙女系カフェに毎朝コーヒーを飲みに来ます。……平凡な私を溺愛しているからって、本気ですか?
「姉さん、受け入れる気じゃないよね?」
私と同じ紫色の瞳が、少し鋭くなった。
でも、それ以外に私には方法が浮かばない。
「しばらく、行方をくらませてくれるかな」
「……え?」
「大丈夫、幸せに暮らせるよ。すでに、申し出があったから」
弟は、天使のように笑った。
この笑顔になったときの弟は、テコでも動かないことを、姉である私は知っている。
「王族が関わっているようだ。時間がない。父上も了承済みだから」
「え、ええ!?」
あっという間にまとめられた荷物と、この状況でどうやって手配したのか分からない馬車。
乗り込みながら振り返った私を見送るように、何人かの妖精がフワリと私の周囲を巡って、飛び立っていった。
……こんなことになるなら、あの騎士様に、一度だけでも話しかければよかった。
ふと浮かんだのは、何度か遠目に見た、黒髪に淡いグリーンの瞳が素敵な騎士様のことだ。
淡い初恋に似た、その記憶と感傷は、母を失い、婚約破棄されて、故郷を去った辛い記憶とともに蓋をされて、再会まで封印されてしまうのだけれど……。
こうして私は、詳細な説明も受けないままに、住み慣れた故郷を離れて、王都へと向かったのだった。