【6月7日書籍発売コミカライズ決定】鬼騎士団長様がキュートな乙女系カフェに毎朝コーヒーを飲みに来ます。……平凡な私を溺愛しているからって、本気ですか?
差し入れと鬼騎士団長
翌朝、ほんの少し、はやる気持ちで、出勤する。今日のテーマは、星空とオーロラらしい。
「わあ!!」
瑠璃色の夜空、瞬く星屑の光。
幻想的な光景のなか、オーロラのような薄い生地を重ねたワンピースが今日の制服だ。
……本当は、初恋がテーマで、ピンクとフリルとハートいっぱいの空間になっていたはずの店内。
裏事情はこうだ。
昨日、ダリアに星屑の光がもうなくなりそうだと言われたお疲れのオーナーは、なんとか気力を振り絞り集めてきたらしい。
けれど、そこで力尽きて、星屑の光が詰まった瓶をひっくり返してしまった。
それは、閉店直後のことだった。
半分ほどこぼれ落ち、天井にばらまかれた星屑の光を捕まえられるのは、魔力が高い人だけ。
けれど、お疲れのオーナーは、すでに体力も気力もなく、テーマ変更となったわけだ。
「私は、むしろこっちの方が……」
騎士団長様だって、初恋がテーマのピンクの空間よりも、こちらの方がお店に入りやすいだろう。
見上げた星空は、本物よりもずっと近い。
まるで手が届きそうだ。
でも、どんなに手を伸ばしても、あと少しのところで星屑の光には手が届かなかった。
「これがほしいのか?」
少し夢中になりすぎたのかもしれない。
お店にお客様が来たことに気がつかないなんて、店員失格だ。
けれど、魔力が高くなければ、簡単には捕まえられないはずの星屑の光を、いとも簡単に手中にしたその人は、私の手に、その光をそっと握らせた。