【12月6日書籍2巻発売コミカライズ決定】鬼騎士団長様がキュートな乙女系カフェに毎朝コーヒーを飲みに来ます。……平凡な私を溺愛しているからって、本気ですか?
「……?」
そのとき、バッグヤードの方から転がり落ちてきそうなほど騒がしく階段を降りる音がした。
「オーナー、どうしたのかしら?」
基本的にはオーナーは、遅くにならないとお店に出てこない。
実は、最近高貴なお客様限定で、カフェ・フローラは夜間も開いているらしい。
そのことについて聞いてみたけれど、オーナーは困ったように笑い、なぜかその場にいた騎士団長様まで視線を逸らして答えてはくれなかった。
そんなことを思いながら、私はトレーにコーヒーとサンドイッチをのせて席へと向かった。
そして、席に着く直前、バタバタと私を追い抜いたオーナーは、なぜか魔術師の正装である長いローブを羽織っていた。
そしてそのまま、お客様の前でひざまずいた。
少しばかり異様なその光景を動じる様子もなく見下ろすお客様と、胸に手を当ててひざまずくオーナー。
私は首をかしげながら、そっとテーブルにコーヒーとサンドイッチをのせる。
(……オーナーが頭を下げるなんて、よほど高貴なお方よね?)
王国筆頭魔術師であるオーナーは、名字を持たないけれど、陛下から与えられた特権によりよほど高位のなければ膝をつく必要がない。
だから私も一歩下がり、トレーを持つ手と反対の手でドレスの裾をつまんで丁寧に礼をした。
「そんな堅苦しくする必要はない。今日はお忍びできたのだからな」
「っ、それならばいつものように夜訪れてくだされば……」
「今日は隣国から要人が来て夜まで忙しい。それに少しだけ君とヴィランドが大事にしている宝物が気になってね?」