【12月6日書籍2巻発売コミカライズ決定】鬼騎士団長様がキュートな乙女系カフェに毎朝コーヒーを飲みに来ます。……平凡な私を溺愛しているからって、本気ですか?
「……せめて、ここに来たときは、何か食事をしてください。薔薇をいただいたお礼に、私が毎回おごります!」
カフェフローラの客層は、裕福な婦人や令嬢、時に貴族だ。
結構お高いけれど、そこは従業員限定の割引券を使わせて貰おう……。
もちろん、こんなことで、あの精巧な細工の薔薇に釣り合うとは思えないけれど。
「――――気持ちはうれしいが、リティリア嬢におごられるわけにいくまい。これでも、騎士団長だ。毎日この店で食べても、問題はない」
「でも、おごります!」
「……そうか。では、その礼については、改めて考えておこう」
お礼をしたら、そのお礼が何倍にもなって返ってくる。
そんなループに陥っている気がするのだけれど……。
その時、お客様が来たベルの音がした。
……そうよね。仕事中にしていい話題でもないわ。
「失礼します」
「……ああ。ところで、俺の体を心配してくれて、うれしかった」
「っ!? ご、ごゆっくり!」
赤くなってしまった頬を隠したくて、俯きながら、足早に席を離れて、お客様を出迎えに行く。
けれど、私は、いらっしゃいませ、という言葉を継げる前に、その場から凍り付いたように動けなくなった。
「――――探した。リティリア」
私を見つめて微笑んだ、金髪碧眼のお客様は、よく知っている人だった。
というより、二度と会いたくない人……。
「ギリアム様……」
目の前には、三年前、男爵領が落ちぶれた途端、友人だと思っていた令嬢を連れて、私に婚約破棄を告げた元婚約者ギリアム・ウィアー子爵令息がいた。