【6月7日書籍発売コミカライズ決定】鬼騎士団長様がキュートな乙女系カフェに毎朝コーヒーを飲みに来ます。……平凡な私を溺愛しているからって、本気ですか?
コーヒーを淹れる。花の香りに合わせた本日のコーヒーは、少し酸味があって華やかで、南国の果実のような甘い香りが見え隠れしている。
――――それにしても、どこかで見たことがある顔なのよね?
来店した騎士様は、たしかにどこかで見たことがあった。
どこなのかは、思い出せないけれど、たしかに何度か見たことがある。
黒い髪の毛に、南洋の淡いグリーンの瞳。
「……?」
私は、そっとコーヒーを差し出す。
「お待たせ致しました」
「ああ、ありがとう」
腕を組んで俯いていた騎士様は、私の方を見上げると、なぜかまぶしい光が入ってしまったように目を細めて、そのあと、春の日差しみたいに微笑んだ。
「――――ご、ごっ、ごゆっくり!?」
「ああ……」
思わずうわずってしまった私は、バックヤードに駆け込んで、ほんのひとときしゃがみ込む。
なんていう破壊力なのだろう。美貌の強面騎士様の、満面の笑顔。
騎士様は、コーヒーをそれほど時間を掛けず飲むと、銀貨を私に手渡して、お店を後にした。
あっという間に、その背中は、王都の街中に消えていった。
「絶対見たことがある……」
どこで見たか思い出せないまま、私はその日、帰途についた。
王都で配られる、新聞の号外。
帰り道、何気なく受け取ったその一面には、今日お店にいらした騎士様がのっていた。
「あっ!! なぜ、思い出せなかったの……。王立騎士団長、アーサー・ヴィランド様」