【6月7日書籍発売コミカライズ決定】鬼騎士団長様がキュートな乙女系カフェに毎朝コーヒーを飲みに来ます。……平凡な私を溺愛しているからって、本気ですか?

 どうやって帰ってきたのか分からないまま、私は部屋に帰り着いて、机に座った。
 何度見ても、今日いらした騎士様は、新聞の一面に載っている騎士団長様と同じ顔をしている。

「……雲の上のお方だったのね。……でも、見たことがあるはずね」

 騎士団長様を見たのは、本当に遠くから。
 まだ、私の実家、レトリック男爵家を襲った災害の数々。
 その時に来てくださった騎士様の中に、現在の騎士団長様もいたのだ。

 レトリック男爵家の没落、その上婚約破棄に、友人の裏切り。
 あの頃のことは、極力思い出さないようにしていたからなのだろうか、思い出せなかったのは。

「恩人……だったのね」

 といっても、もう来ることもないわよね?

 その時の私は、そんな風に考えて、新聞を丁寧に折りたたむと、机の引き出しにしまったのだった。
 
< 65 / 334 >

この作品をシェア

pagetop