【6月7日書籍発売コミカライズ決定】鬼騎士団長様がキュートな乙女系カフェに毎朝コーヒーを飲みに来ます。……平凡な私を溺愛しているからって、本気ですか?

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 花の妖精に引き続き、今日のお店のテーマは、精霊の眠る深い森だ。
 苔むした地面、湧き出た泉から流れ出した小川が店内を流れている。
 触るとたしかに冷たいのに、魔法でできているから、服や靴を濡らすことはない。

 ……カフェフローラのオーナーは、天才魔術師なのだ。

 光はどこから差し込んでいるのだろう。
 木漏れ日の中、木から木へかわいらしいリスが飛び移っていく。

 ピンクのストライプのワンピースから打って変わり、今日の制服は落ち着いた印象だ。
 コルセットのついたワンピースは、裾が長い。
 優しく淡いグリーンと、ベージュのワンピースは、歩くたびに軽やかに揺れる。

 そして、小川のせせらぎと、鳥の鳴き声に耳を澄ませた瞬間だった。

「席は、空いているだろうか」

 その声は、低くて、どの音よりも心地よい。
 
 ……でも、働いている最中に、森の音に気をとられて、お客様がいらしたのに気がつかないなんて、店員失格だわ。

「いっ、いらっしゃいませ!」

 昨日の席にご案内すると、今日も騎士団長様は、席に着く。
 ただ、それだけなのに、あまりに優雅なその動きに、目を奪われてしまう。
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