【12月6日書籍2巻発売コミカライズ決定】鬼騎士団長様がキュートな乙女系カフェに毎朝コーヒーを飲みに来ます。……平凡な私を溺愛しているからって、本気ですか?
私が抱えているものよりも、ずっと大きなものを抱えたまま、誰も巻き込みたくないと願っていた騎士団長様は、本当に優しい。
「もう一度?」
「俺は誰かを愛すことなんてないと、愛さずに生きていけると、かたくなに信じていた」
私の肩に、まるで懺悔でもするように押しつけられた額。
私にできることなんて、何一つ思いつかないから、せめてそっと抱きしめる。
明るい瞳の色と対比するみたいな、真っ黒な髪の毛。もっと、堅いのかと思ったのに、予想よりずっとやわらかい。
「リティリア嬢、君は、俺に巻き込まれた自覚はあるのか?」
「騎士団長様……」
「すべてをかけて、守ると誓う。君の憂いをすべて取り除こう。恋人、婚約者なんて願いすぎだとわかっている。……好きだといってもらえただけで、俺は」
おそらく、私が抱えている、レトリック男爵家の秘密なんて、王国の秘密のなかでは、それほど大きくないに違いない。
きっと、周囲に知れ渡れば、それなりの騒動に巻き込まれるのは、想像に難くないとしても。
「全部、話します」
今、私に頭をそっと抱きしめられた騎士団長様は、王国最強で、鬼騎士団長なんて呼ばれているのに、守ってあげたくなる。
もちろん私は、なにひとつできない。
それでも、そばにいてもいいのなら、危険に身を置く覚悟だけは持てそうだ。
……そんな場所に、一人で立っているって、理解してしまったから。
耳の上にかかった髪の毛をそっと撫でる。
「そばにいます。だから、守ってくださいね?」
口にすることができないのは、騎士団長様を守りたいという、ただのカフェ店員の私には、叶えられない願い。
それなのに、その願いが通じたみたいに、顔を上げた騎士団長様は、「約束する」と晴れやかに笑ったのだった。