【6月7日書籍発売コミカライズ決定】鬼騎士団長様がキュートな乙女系カフェに毎朝コーヒーを飲みに来ます。……平凡な私を溺愛しているからって、本気ですか?
「あ、あのっ。騎士団長様が、身につけておられるコロンが、スパイシーだったので」
「俺の、香り?」
ああっ、ますます、おかしなことを言ってしまったかもしれないわ!?
「……ふ」
美しい南の海みたいな瞳を軽く見開いたまま、私のことを見ていた騎士団長様が、口元を押さえてふと笑った。
「君のお菓子作りの一助になったのなら、光栄だ」
「えっ、あの。……ありがとうございます?」
「礼を言うのは、こちらだ。君の入れてくれるコーヒーも、そしてクッキーも、本当に美味しい」
それだけ言うと、騎士団長様は、コーヒーを飲みきって立ち上がる。
「また来てもいいだろうか。……リティリア嬢」
「えっ、あの! もちろんです。もちろんお待ちしています」
「ごちそうさま」
そして、騎士団長様は、私にたしかに笑いかけた。
その瞬間、なぜか店内の時が止まってしまったように、音すら聞こえなくなってしまう。
ドアが閉まる音がして、受け取った銀貨を握りしめたまま、我に返った時には、もう騎士団長様の姿は、どこにも見えなかった。