俺と、悪いことしちゃおっか?


先輩の大きな手が、私の頭の上に乗せられた。


「ちゃんと約束を守って偉いね、咲奈ちゃんは」


頭の上で先輩の手のひらが、ポンポンと優しく跳ねる。


うわ、男の人に初めて頭ポンポンされちゃった。やばい、なんか照れくさい。


「ひっ、人として、当然のことをしたまでです。約束を破るなんてそんなこと、できませんから」


一瞬、先輩を起こさずに帰ろうかと思ったくせに……よく言うよと、心の中で自分に突っ込む。


「咲奈ちゃんは、真面目だね。明日もまた来てくれる?」


先輩が、首を傾ける。


「きっ、気が向いたら……。次の授業、移動教室なので。失礼します」


「明日もここで待ってるよ。俺、咲奈ちゃんに会いたいからさ。絶対来てよね?」


うっ……。


「またねー、咲奈ちゃん」


ひらひらと爽やかに手を振る先輩を横目に、私は逃げるように保健室を出て行く。


『俺、咲奈ちゃんに会いたいからさ』


そんなふうに言われたら……。


明日からも、ここに来ないわけにはいかないじゃない。


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