俺と、悪いことしちゃおっか?


リン……ちゃん?


聞こえてきた名前に、私は自分の耳を疑った。


「んー。やっぱりリンちゃんが、誰よりも一番可愛いよ」


先輩が、そう言って私の頭を優しく撫でる。


ねぇ、リンちゃんって誰ですか?


心の中で問いかけるも、先輩は当然答えてはくれない。


「……っ、」


冷たい手で心臓を掴まれたみたいに、上手く息ができなくなる。


『リンちゃん』って名前からして、どう考えても女の子だよね?


『俺がこんなに何度も可愛いって言うのは、咲奈ちゃんだけだから』って。

須藤先輩、前に私に言ってくれたのに。


“ リンちゃん ” って人にも、言ってるってこと?


そもそも、寝ている須藤先輩を起こしてあげてるのは……私だけじゃなかったの?


突然のことに、頭が混乱する。


『平沢さんの他にも、あなたと同じような存在の女の子はきっといるはず』

須藤先輩のファンである田村先輩にも、そう言われていたし。


須藤先輩はプレイボーイで、女の子を取っかえ引っ変えすることで有名だったから。


自分でも分かっていたはずなのに……。


先輩の口から、他の女の子の名前が出て。


どうして今さら、こんなにも胸が苦しくなるの……?


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