俺と、悪いことしちゃおっか?
締めつけられるように痛む胸を、私は服の上からぎゅっと押さえる。
もしかしたら私は、他の女の子とは違う。
須藤先輩にとって、自分は特別な存在なのかもしれないと、勝手に思っていたのかもしれない。
いや、そう思いたかったんだ。
『まぁ俺としては、このまま皆勤賞目指して頑張って欲しいんだけど』
須藤先輩の言葉。
『これを街で見かけたとき、真っ先に咲奈ちゃんの顔が思い浮かんでさ。キミに、似合うだろうなと思って買ったんだ』
あのときの先輩の笑顔と、先輩からもらったシュシュ。
そして何より、須藤先輩のとても嘘を言っているようには見えなかった真っ直ぐな瞳。
誰に何と言われようと、私は先輩のことを信じていたかったのかもしれない。
だけど……、こうして目の前で知らない女の子の名前を呼ばれてしまったら。
先輩の目覚まし時計である人が、自分以外にもいるのだと知ってしまったら。
私はもう先輩のことを信じて良いのか、分からなくなってしまう。
やっぱり、あのとき田村先輩が私に言っていたことは正しかったのだと思わざるを得なくなる。
保健室の窓を打ちつける雨風が、一段と強くなる。
まさかこんなことで、心臓が押しつぶされそうになるなんて。
まさか自分が、ここまでショックを受けるなんて……思ってもみなかった。
そして、それほどまで自分が須藤先輩のことを好きになっていたなんて……。
こんな形で、気づきたくはなかった──。