俺と、悪いことしちゃおっか?
もしかして、“ リンは俺の彼女 ” とでも言うのかな? だったら……。
「そんな話、聞きたくないです。先輩とリンちゃんのことなんて、私には関係ないですから」
先輩の口から直接、女性関係の話なんて聞いたらきっと今以上に傷つく。
何日か前に私は梨沙子から、街中で綺麗な女の人と歩く須藤先輩の姿を見かけたという話を聞いたばかりだし。
学校でも、須藤先輩の隣を歩くのはまた別の女の子。
『自分が傷つく前に、彼から離れたほうが身のためよ』
いつかの田村先輩の言葉が、頭を過ぎった。
私は、先輩の数ある女の子のうちの1人にはなりたくない。
私は、手のひらをギュッときつく握りしめる。
「私は先輩の都合の良い女とか、そういうのになるのだけは御免です。お願いだから、先輩……もう私に構わないで下さい」
それだけ言うと、私は教室から飛び出し廊下を走り出す。
「待って、咲奈ちゃん……!」
先輩が、私のことを大声で呼ぶ声がしたけれど。
私は、自分がこれ以上傷つきたくなくて。
先輩の話を聞くのが怖くて……。
私は立ち止まらず、ひたすら走り続けた。