俺と、悪いことしちゃおっか?
その途端、シーンと静まり返る保健室。窓の向こうから、体育祭のにぎやかな声が聞こえてくるだけだ。
何か話したほうが良いのかと、私が考えこんでいたとき。
「……咲奈ちゃん。さっきの消毒のとき、結構染みたんじゃない? 大丈夫だった?」
沈黙を破ったのは、須藤先輩だった。
「思わず、泣きそうになっちゃいました」
「涙目になってたもんね。ちゃんと我慢できて、えらいえらい」
須藤先輩が、ぽんぽんと私の頭を優しく撫でる。
「さっきの障害物競走も咲奈ちゃん転んじゃったのに、最後まで一生懸命頑張ってたよね。俺、ちゃんと見てたよ」
先輩、私のことを見ててくれたの?
「あのさ、こんなときにあれなんだけど。ちょっとだけ話せない?」
「えっ!」
「あっ。もしかして咲奈ちゃん、まだ出番ある?」
「いえ。午前中は、さっきの障害物競走だけなので大丈夫です」
「そっか、良かった。ずっとキミと話したいなって思ってたから」
先輩がにっこりと微笑む。
「ねぇ咲奈ちゃん。こっちに来てくれる?」
須藤先輩がいつもの窓際のベッドに座り、その隣をぽんっと叩く。
「俺……キミに、大事な話があるんだ」