たとえば運命の1日があるとすれば
デザートのジェラートを食べ終えて、ノンカフェインのコーヒーを飲み始めた頃、滝沢さんがやってきた。

「こんばんは。来てくれてありがとう」

彼は私の隣の席に座った。

顔色を変えずにこっちがドキドキすることをするんだから、もう。

「レストランで副業っていうからてっきり料理作るほうだと思ってました。まさかギタリストだとは。料理食べるのに集中してて途中まで全然演奏聴いてませんでした」

「それでいいんですよ。僕のはあくまでもBGMなので。最後の曲以外は」

「……ありがとうございました。別れの曲に励まされるとは」

「どういたしまして」

やっぱり、私のために弾いてくれたんだと思うと、
……うわぁ、どうしよう、すごくうれしい。

「僕これから晩御飯食べるんだけど、時間に余裕があればもう少しいてもらえますか?」

そして、相手に求められることもうれしい。

「もちろんです! 時間はたっぷりあるので、いろいろお話きかせてもらいたいです」

「何なりと」

「滝沢さんご自身の話とか、ギターの話とか」

「はい。どうぞ」

「じゃあまず、滝沢さんが弾いてたのって何ですか? アコースティックギター?クラシックギター? これってどう違うんですか?」

「それ話し出すと、一晩中語りますよ?」

……顔色変えずにそういうこと言う!

「望むところです!」


失恋して、恋に落ちて。
人生には不思議な一日もあるものだなと思う。
もし未来から過去を振り返ったとすると、今日が運命が変わった1日だったと思い返すような気がする。


「僕が弾いてたのは……」

そんな一日は、まだ終わらない。

どんな一日の終わりになるのか、わくわくしながら彼の話に吸い込まれていく。



fin.




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