たとえば運命の1日があるとすれば
その時、机の上に置いたスマホが、メッセージの着信を告げた。

ドキリとしながらそれを見る。

ついに来た。

見たいような見たくないような。

でも早く楽になりたくて、ぐるぐるする心をなだめつつ、スマホカバーを開き、画面を見た。

メッセージアプリを開くまでもなかった。
通知画面でじゅうぶんな、四文字。



『別れよう』



それだけ。

もうね、思わず笑ってしまった。

それだけか!

隣の滝沢さんがこちらを伺うのがわかった。

「あ、ごめんなさい。思わず」

「いえ」

「何ヶ月も音信不通の彼に『大事な話がある』って送ったら、『別れよう』って返ってきたので、呆れてるだけです。ずっと悩んでた自分が馬鹿みたい。いえ馬鹿なんですけど」

プライドの高い彼のことだ。
先に振ってやる、と思ったのだろう。

何て返信するか、少しだけ迷った。

『わかりました』

これだけだとあの人と同じレベルだ。
その後に何かつけるか。
お世話になりました?
お元気で?
数年間を思い返すには、この場所は明るすぎて、そぐわない。

私はさっさとあきらめて、さっきの6文字だけの『わかりました』で送信ボタンを押して、スマホをバッグにしまった。
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