たとえば運命の1日があるとすれば
「あーすっきりした。さーて、今晩から何しようかなー」

滝沢さんに聞こえるように言う。
ちょっと露骨かな。

「そういえば、滝沢さんは副業って、何されてるんですか?」

彼はスマホを取り出し、手帳型ケースに挟んであったカードを取り出して、私に差し出してくれた。
相変わらずきれいな手つきで。

受け取ると、それはショップカードだった。

創作料理のお店?

「イタリアで修行してきたシェフがやってる小さなレストランで働かせてもらってます」

副業で料理してるってこと?
料理男子か。
なるほどきれいな手つきは料理うまそう。

「よかったらいらしてください。ひとりで来てゆっくり過ごす人が多いです。雰囲気もいいし味もいいしお値段はお手頃、だけど場所がイマイチでそこまで流行らない、ビジネスとしては微妙な店ですね。僕は好きで、だから働いてるんですけど」

驚いた。

よくしゃべる。
見た目で勝手に無口なタイプかと思ってた。

そして、最後の『僕は好き』って言葉、いいなぁと思った。
主張がはっきりしてる。

元彼の『何でもいい』『どこでもいい』って投げやりな言葉に疲れていた。

私はショップカードをしっかり持って返事をした。

「行きます!」

「お待ちしてます」


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