たとえば運命の1日があるとすれば
ほどなく、サラダが運ばれてきた。

あまり気取らない、けれどプロの盛り付けのセンスを感じる。
滝沢さんがどの部分を担当したのかはわからないけれど、ゆっくりじっくり味わいながら、食べ進める。
口に入れて、咀嚼しつつ、五感を懸命に働かせて味わっていると、身体にエネルギーが巡り始める感覚がしてきた。

そして、頃合いを見計らってパスタが運ばれてきた。

見た目が美しく、
香りも食欲を刺激してくれて、
口に入れると、“快”の感情が湧き上がる。

おいしい。

……やだ。涙腺がゆるむ。

久々に心がうるおい、お腹も心も満たされていく感覚を味わった。
ここ数か月というもの、あまり食欲がなく、何を食べても味気なかった。
さらに、何を見ても聴いても心に入ってこないし響いてこなかった。
心がカピカピに干からびて、かたくなってたんだ。

唐突だけど、世界は広いんだな、なんてことを思った。

元カレに固執することなく、自分で動けば、心地よさは手に入ったのだ。

これは大きな学びだな、と心のメモ帳に書き留める。

パスタを食べ終わると、さっきの女性店員さんが食器を下げに来てくれた。

「ご馳走様でした。すごくおいしかったです」

「ありがとうございます。デザートとコーヒーお持ちしますね」

素敵な笑顔で去っていく。

スタッフさんの雰囲気がいいことも、滝沢さんがここで働いている理由のひとつなんじゃないかと勝手に想像する。
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